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短編小説「あるとき月が目にした話によると」第四夜

第三夜↓


第四夜

 この日あらわれた月は、いつにも増して繊細に光を放っているようでした。そしていつもより慎重にわたしの部屋へ入ってきました。よく目を凝らして見ると、この晩の彼は、そこかしこに星々をともに連れてやってきたのです。
「どうしてもあなたを一目見てみたいというものですから」月はそう言って、自らの席を星々に譲りました。彼がすっかり雲に隠れてしまうと、そこには星々の小さな光だけが残りました。こんな路地裏にある薄暗い部屋に住むわたしを、なにを思って尋ねにきたものかと不思議に思ったものです。ですからわたしは彼らにこう言いました。
「なんのお構いもできませんよ」と。ですが、彼らはそれで構わないといった様子でした。

 星々はたがいに顔を見合わせたりはするものの、月のようになにかを発することはありませんでした。彼らはひとつとして同じ大きさの光はなく、自由気ままに、そこらを小さく照らしていました。こんな日がやって来るのであれば、星座のひとつやふたつ、覚えておくべきだったと、わたしはこれまでの自分へため息を送ってしまいました。そのくらい、彼らの小さな光は美しく、儚く、そしてときに力強かったのです。

 どれくらいの時間が経ったでしょうか。じっと彼らを見つめていると、わたしは星々のお話も聞いてみたいと、つい願ってしまったのです。すると途端に、辺りは暗くなり始めました。ふっと頭を上げるとつい先ほどまでいた輝かしいほどの星々はいなくなり、そこには月ただひとつだけが残される形となっておりました。

「やはり、あなたも同じ人間なのですね」月は言いました。
「私は今日、あなたを試しにきたのです。どれほど淡白で欲の薄い人間でも、これまで私が見てきたような欲にまみれ、飲まれ、溺れるような人間と同じような考えを抱くことはあるのだろうかと。つい、試したくなってしまったのです」
そう言って月は、ほんの一瞬ばかり、にやりと笑うようにその体を光らせました。わたしは、それほどまでに自分が淡白に見えているのかと少々驚いたものですが、それ以上にこんなふうに人間を弄ぶ月のお話を、もっと聞きたいと、より欲深くなってしまったものですよ。


第五夜↓

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