私は生まれなかったかもしれない命
姉と私の間には生まれるはずの命があった。
その命が生まれることがなかったから、私は生まれることができた。
このことを知ったのはいつだったか・・・
けっこう大きくなってからだった気がする。
母は私に言った。
「あんたは生まれてなかったかもしれないんだよ。」
その頃の私は、母の言葉の中に何一つ肯定的な意味合いを感じ取ることができずにいたから、自分が今ここにいることが申し訳ないように感じた。
その命の分までちゃんと生きなくちゃいけないんだと思った。
時々自分が情けない存在に感じると、自分じゃなくて、その子が生まれた方が良かったんじゃないかと思った。
今思う。
私がある程度大きくなるまで、そのことを知らされていなかったのは、私が知ったら、そういう責任を感じる人間だと母はわかっていたからだろう。
私は、その命が生まれていたら、どんな子だっただろうと、よく想像した。
いつ想像しても、その子は女の子だった。私より先にあった命なのに、イメージの中では私よりも小さくて、妹みたいに思っていた。
おとなしい性格で、優しくて、色が白い。笑うと目が細くなる。二つに髪を結っていて、女の子らしい服がよく似合う。私と正反対な印象。
そしてその命を想像すると、その命が自分の中に生きている気がした。話しかけた。そして、友だちになった。
私が生きている限り、ずっと一緒だよ と約束した。