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‘すぺしゃる’の向こう側 (13) どきどき、わくわく

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

13)どきどき、わくわく!
その日は、おじさんの家に泊めてもらい、次の日の朝、起きたら、外は、また、すてきな晴れた日だった。おじさんと、ぼくと、りゅうは、簡単に、朝ご飯を食べて、そのあと、おじさんは、にっこりと、
「今日は、晴れだから、外で、実験しましょう!」
と言った。
「楽しいですよ。」
おじさんは、また、いたずらっぽく笑った。

高い塔を、階段で降りて、下についたとき、おじさんも、ぼくも、汗だくだった。りゅうは、ちゃっかり、外から飛んで降りて、すずしい顔で、ぼくたちを待っていた。ずるいやつだなあ、ほんとに。
「りゅうに乗って降りたら、よかったね。」
ぼくは、おじさんに、何気なく言った。そうしたら、おじさんは、
「いえいえ、とんでもない。ぼくは、重いですから、りゅうくんが、かわいそうです。ぼくは、階段、慣れていますから。あ、でも、きみは、りゅうくんに乗って降りたら良かったですね。気が付かなくて。降りる前に言ってあげたら、良かったですね。すみません。」
と、なぜか、ていねいに、謝ってくれた。ぼくは、なんて優しくて、素敵な人なんだろうと、心から、思った。ぼくは、おじさんを尊敬して、大好きになった。

おじさんは、階段の一番下にある部屋から、大きなバケツを、1つ、外に持ち出した。そして、薬品の入った大きな入れ物を、気をつけて、だいじに、だいじに、塔の中から外へ持ってきた。薬品は、2種類あって、1つの薬品は、小さい入れ物に入っていた。おじさんは、塔と外を、何度も、何度も、行ったり来たりして、たくさんの薬品を運んだ。途中、
「ぼくも手伝うよ。」
と言ったけれど、危ない薬品だからと、ぼくに手伝わせずに、汗をいっぱいかいて、運んでいた。そして、最後に、水を入れた小さいバケツを持ってきた。外には、大きなおふろのバスタブがあって、おじさんは、そこで、晴れた日には、おふろに入るんだと言っていた。

「さあ、はじめましょう!」
おじさんは、めがねをかけて、ぼくと、りゅうにも、安全のためにと、めがねを貸してくれた。それから、
「今日は、薬品を使いますから、なめたり、飲んだりしては、だめですよ。」
と、すごくまじめな顔で言ったから、ぼくも、まじめに、
「はい。」
と返事をした。
「今回は、あぶないから、見ていてくださいね。」
「えー、ぼく、できないの?」
ぼくのがっかりした顔を見たおじさんは、
「見ているだけでも、絶対、面白いですから。」
と自信いっぱいに言った。

おじさんは、まず、小さい入れ物の粉を、大きいバケツにいれて、水を入れた。途中、休みながら、ゆっくり、ゆっくり、ちょっとずつ入れて、混ぜた。つぎに、バスタブに、大きな入れ物の液体の薬品を入れた。それから、バスタブに、青い粉を入れて、混ぜた。とても危ないからと言って、ぼくとりゅうは、遠くで見ていて、おじさんは、すごく慎重に、ゆっくり、そっと、薬品を、バケツに注いでいった。

それから、おじさんは、ぼくのほうを見て、にっこり笑って、
「これから、実験しますよ---!」
と言って、
「もう十歩さがって。」
と叫んだ。ぼくと、りゅうは、
「一歩、二歩、三歩…。」
と言いながら、十歩下がった。それを見てから、おじさんは、慎重に、もう一度、粉と水をまぜた大きなバケツをまぜて、大きいバスタブに、慎重に、でも、素早く入れて、走って、ぼくのところまで、逃げてきた!

ブリュ、ブリュ、ブリュ、ビュシュ――――――! 

すごくたくさんの、水色と白の泡が、みるみるできて、大きなバスタブから飛び出して、高く高く飛び出して、それから、どんどん外へ広がって、あっという間に、ぼくの近くまで来たから、ぼくは、走って逃げた。でも、どうなっているか見たいから、後ろを向いて走った。りゅうは、びっくりして、空高く、飛んで、逃げてしまった。

ぶくぶくぶく、ぶくぶくぶく。大きな、あわのかたまりは、どんどんどんどん、ふえて、広がって…。すごかった。びっくりした。でも、わくわくした。

おじさんは、きらきらした目で、
「すごいでしょう!おもしろいでしょう!」
と言った。ぼくも、大きく
「うん、うん。」
とうなずいた。あわは、ふわふわして、はみがきの泡みたいだった。サーカスの大きな動物、これで、歯がみがけるなと、思った。でも、おじさんいわく、口に入れてはいけないそうだ。それを聞いて、ちょっとがっかりした。

この実験のあと、ぼくは、おじさんの助手になりたいと思った。こんなふうに、毎日、わくわくして、きらきらした目で、実験ができたら、どんなに素晴らしいだろうと思ったからだ。おじさんに聞いたら、「いいですよ。」
とにっこり笑って、言ってくれた。おじさんは、ほんとうに優しい。

おじさんとの毎日は、本当に楽しかった。たくさんの実験をした。アルミホイルにマーカーで虫をかいて、水を入れた入れ物にいれると、マーカーで描いた虫が水に浮いてきて、水を動かして、おじさんと、虫で競争した。透明ののりと、白い粉と、赤い食紅と、コンタクトレンズを洗う液体とベビーオイルを混ぜて、スライムを作った。おじさんのじっけんは、いつも面白くて、おじさんも、ぼくも、毎回、目がきらきらになる。おじさんのところには、難しい名前の薬品も、危ない薬品もあるけれど、案外、毎日、生活で使っているものだけで、いろいろと楽しい実験ができるのが、おどろきだった。

おじさんのお仕事は、家で実験したものを書いて本を作るのと、ときどき、近くの町の学校にいって、子どもたちと、その楽しい実験を一緒にすることだ。ぼくと、りゅうも、おじさんといっしょに、学校に行って、子供たちのきらきらした目で見てもらって、本当に、うれしかった。

ママ、ぼくは、また、ここでも、きらきらを集めているよ。

つづく…

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