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‘すぺしゃる’の向こう側 (16) バナバナ売り

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

16)バナバナ売り
ルンパに連れていかれたのは、ルンパのお母さんのバナバナのお店。いつもは、ルンパが帰ってきたら、ぼくたちは、ずっと公園にいるから、お母さんは、驚いたのか、目と口を動かさずに、
「どうしたの?」
と聞いた。ルンパは、こちょこちょポーズで、ぼくに、
「さっきみたいに、話してみて。バナバナ、おいしいよって、やってみて。」

ぼくは、
「でも、みんな、びっくりするよ。」
と、こまった顔で、言った。
「それが、いいのよ。さっきの、言葉が、ぴょんぴょんはねるの、私、好き。」
ルンパは、さっきよりもっと、ゆびを激しく、早く動かして、言った。

それで、ぼくは、おそるおそる、小さい声で、
「バナバナ、おいしいよぉーー♪ バナバナ、甘いよぉーー♪」
歌詞も、メロディーも、適当に、でっちあげて、歌ってみた。ルンパを見たら、余計、指を動かした。お母さんも、ちょっと、指を動かしている。ぼくは、それを見て、ちょっと安心して、続けた。

「甘くて、さっぱり、ピンクのかわいいバーナバナ♩ バナ、バナ、バナバナバナーー♬」

通りを歩いている人たちが、足を止めた。どんどん、集まってきた。みんな、目も口も動いていないけど、ちょっとこちょこちょポーズをしている人もいる。足をつまさきで立って、かかとを、リズムにあわせて、トントンさせている子どももいる。

「バナバナ、おいしいよぉーー♪ バナバナ、甘いよぉーー♪ 甘くて、さっぱり、ピンクのかわいいバーナバナ♩ バナ、バナ、バナバナバナーー♬ 安くて、おいしいよぉーー♪ バナバナ、かわいいかったっちーー♪ 甘くて、さっぱり、くるくるのかわいいバーナバナ♩バナ、バナ、バナバナバナーー♬ 」

ぼくは、気分が良くなって、どんどん、大きな声になって、口も大きくあけて、目もくるくる動かして、にっこり笑って、手も振りをつけて、足もどんどんさせて踊って、歌ってしまっていた。だって、楽しいから。歌が終わったら、バナバナの店の前には、たくさん人が集まっていて、みんな、指を、こちょこちょポーズにして、早く動かしていた。相変わらず、目も口も動かしていないけれど、みんなの指で、ぼくは、みんなが、わくわくしてくれているのが、わかって、すごく嬉しかった。

ルンパ

それから、毎日、バナバナのお店で、ぼくは、朝と、ルンパが学校から帰ってきてからと、一日二回、バナバナの歌を歌った。バナバナの歌は、とても人気がでて、たくさんの人が集まった。歌が終わると、みんな、目も口も動かさないけど、こちょこちょ指をすごく動かして、みんな、わくわくしている。バナバナのお店で、みんな、たくさん、バナバナを買ってくれて、お店も大繁盛。ルンパも、だんだん歌も、ダンスも、ぼくのまねをして、少しずつ、できるようになって、ぼくと一緒に、歌ってくれるようになった。見ている人も、どんどん、一緒に歌を、歌ってくれる人が、増えてきた。小さい声だけど、目も口もあまり動かさないけど、両手の指と、足のかかとで、リズムを取って。町のテレビ局も、取材にやってきた。ぼくは、町の人気者になった。この町では、みんなの目は、きらきらしていないけれど、指の動きが、きらきらだ。

ママ、ぼく、たくさん、きらきらをあつめているよ。ぼくは、ママのとくべつになれたかな。

つづく…

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