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‘すぺしゃる’の向こう側 (17) ルンパ、できるよね

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

17)ルンパ、できるよね
ルンパのお母さんのバナバナのお店で、歌を歌い始めて、2か月経ったころ、ルンパは、もうバナバナの歌を歌えるようになった。通りの他のお店でも、バナバナの歌のように、それぞれのお店で売っている野菜や果物の歌を歌うようになってきた。町のテレビや新聞が、ぼくを、「この町の新しい風」と呼んで、いろいろと、ぼくに、インタビューして、発表した。町では、ぼくのように、大きい声で話す人も、目や口を動かして話す人もでてきたし、おじぎのあいさつをしたりと、ぼくの「ふつう」を取り入れる人もいたし、今までどおり、チョキのあいさつ、小さい声と目や口を動かさずに話す人もいるし、ちょっとだけ取り入れる人もいる。人、それぞれだけど、お互い、だめでしょ、間違っているでしょと、けんかをする人がいないのは、とてもいい。

でも、最近、ぼくは、ちょっと気になっていることがある。りゅうのことだ。りゅうは、この町に来てから、ずっと、ルンパの家にいる。バナバナのお店は、とても小さいから、りゅうは、大きすぎて、入れない。だから、ずっと、家でおるすばんをしている。りゅうは、お昼に、ぐーぐー寝て、夜、ルンパの家の庭の木の枝に座って、ずっと、月を見ている。

ぼくは、いつのまにか、この町に合わせて、家に帰った時、あまり大きな声で、りゅうに、話しかけなかった。だから、りゅうも、小さい声で、
「きゅるきゅる」
遠慮しながら、鳴いていたけれど、近頃は、さっぱり、何も言わない。干し草も、あまり食べなくなった。

ぼくは、りゅうのために、この町を出て、冒険を続けようと、決めた。ルンパと、ルンパの家族に、町を出ることを、言った。ルンパは、目も口も動かさずに、目からぽろぽろ、涙を流した。そして、両手をグーの形に、にぎりしめた。悲しんでくれているんだなと、思った。ルンパのお母さんも、お父さんも、おばあちゃんも、お姉さんも、両手をグーにした。ぼくは、一人ずつ、ぎゅっと、抱きしめて、
「ありがとう。大好き。」
と、大きい声だけど、できるだけ優しく、ゆっくりと、言った。ルンパを見て、
「ルンパ、歌、もう一人で、できるよね。」
と、今度は、小さい声で、でも、できるだけ優しく、ゆっくりと、言った。ルンパは、
「うん。」
と、小さい声で、でも、力強くうなずいた。目からは、きれいな、お星さまのような涙が、きらきら、落ちてきた。

そして、ぼくは、りゅうに乗って、夜の空に、飛び立った。

つづく…

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