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‘すぺしゃる’の向こう側 (7)

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

7)初めての仕事
フォンダは、大きな色とりどりのテントがある広場で、立ち止まった。目の前には、大きな赤いテント。向こう側には、黄色い大きなテント。左には、小さい緑のテントや、靑のテント。そのもひとつ左のオレンジのテントは、中ぐらいで、たくさんの人が、出たり、入ったりしていた。オレンジのテントの向こうには、檻があって、なんだか、変な声が聞こえて、ちょっと、怖かった。赤いテントの前には、たくさんの人がわいわい並んでいて、楽しそうだったので、ちょっと安心した。

フォンダは、袋を持って、緑のテントに入っていった。すると、かわいい動物が、フォンダの肩に乗って、果物を、ひょいと取っていった。
「こら、ポンティ―。お行儀が悪いぞ。」
ポンティ―と呼ばれた動物は、
「キキキ。」
と、いたずらっぽく鳴いて、果物をかじった。よく見ると、そのテントには、他にも、5匹、動物がいて、フォンダは、みんなに、果物を1つずつあげて、外に出た。そして、緑のテントの裏にある大きな檻に入った、大きな動物に、残りの果物を、全部あげた。大きな動物は、長い鼻で、果物を器用につかんで、口に持っていって、おいしそうに食べた。やさしい目の動物だ。とてつもなく大きいけど。

そして、次に、フォンダは、赤いテントに連れて行ってくれた。赤いテントには、真ん中に広い、ひらたい土のところがあって、そのまわりに、たくさんの人が、いすに座っていた。あとから、あとから、人がどんどん入ってきて、座っていく。きっと、さっき、赤いテントの前に並んでいた人たちだ。わいわい、がやがや、みんな、楽しそうだ。

しばらくして、ほとんどのいすが、人でいっぱいになったとき、アナウンスが聞こえた。
「レディース アンド ジェントルマン。今日は、お忙しい中、おこしいただき、まことに、ありがとうございます。こよいは、わたくしどもと、ともに、楽しいひとときをおすごしください。」
ファンファーレが鳴って、きれいな羽根の飾りをつけたおねえさんや、顔をまっ白にぬった面白い化粧のおじさんたちが、たくさん出てきた。おじさんは、たくさんボールを持っていて、ボールを空中に投げてはつかみ、投げてはつかみ。。。すごく上手だった。楽しい曲が演奏されて、おねえさんたちが、ダンスをして。。。次にでてきたおじさんたちは、大きな玉に乗って、上手に、右へ、左へ、動いていた。そのうち、さっきのかわいい動物、ポンティ―も出てきて、大きな玉に乗り始めた。

「さあ、おれも、用意しないと。」
フォンダは、青いテントに入って、着がえはじめた。他にも、4人。みんな、体操をして、腕や足を伸ばして、ちょっとジャンプして。。。すごく真剣な顔でしゃべらなくなったから、ぼくもだまって、フォンダと仲間たちを見ていた。それから、
「出番よ。」
という声が聞こえて、フォンダたちは、赤いテントへ走っていった。赤いテントでは、大きなかん声がわきあがっていた。

ぼくは、そっと、赤いテントの入り口から見ていた。赤いテントの真ん中には、とても高いところに、ロープと長いぶらんこが置かれていた。その両脇には、すごく高い棒が、2本、あった。フォンダたちは、2つのグループに分かれて、その、すごく高い棒についた取っ手を持って、高い棒の一番上にある、すごく小さい台の上にのぼっていった。そして、ドラムが鳴って、向こうの棒にいるフォンダが、ぶらんこにぶらさがって、ゆーらゆら。とても高いところのぶらんこ。そして、反対がわの棒にいる人も、もう一つのブランコにぶらさがって、ゆーらゆら。そして、ドラムがけたたましくなって、なって、「ダーン!」。大きなドラムとともに、むこうのブランコのフォンダが、ジャンプして、こっちのブランコの人の手を取った。そして、向こうのあいたぶらんこに、次の人がぶらさがって、ドラムがまた長く、けたたまして鳴って、「ダーン!」。今度は、フォンダはジャンプして、むこうのブランコの人の手を取った。テントの中は、拍手でいっぱいだった。
「フォンダ、すごい!」
ぼくは、どきどきした。

それから、いくつか、すごいショーがあって、そのあと、すべてが終わって、人が帰っていった。テントは、しーんとしていた。赤いテントで、ぼーっとしていると、タオルで汗を拭きながら、フォンダがやってきた。

フォンダは、ぼくを見て、言った。
「わかっているかと思うけど、ここは、サーカスだ。おまえのようなチビも、がんばって、練習したら、サーカスに出られる。おまえの食べ物と、おまえの連れているりゅうの食べ物ぐらいは、サーカスで、出してやれるぞ。どうする?やってみるか?」

ぼくは、見ていて、たしかに、わくわくしたけれど、やってみたいとは思うけれど、どう考えても、ぼくは、ぶらんこで、空を飛べると思えなかった。
「ぼく、ぶらんこ、無理だよ。」
小さい声で言ったら、フォンダが、大きい声で笑った。
「ははは。だれも、最初から、ぶらんこなんてさせないから。おまえは、まあ、まずは、ショーの最初に出て、ダンスをしたらいいよ。」
「下で?」
「うん、下で。」
しばらく、お互い、見つめあったあと、フォンダがもう一度、聞いた。
「やってみるか。」

「うん、やってみる。」

ぼくは、こうして、サーカスで、働き始めることにした。

つづく…

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