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匿名劇壇『いないいないなぁ!』感想っぽい何か


はじめに

扇町ミュージアムキューブにて2023/10/28(土) ~ 10/29(日)に上演された、匿名劇壇『いないいないなぁ!』を観てきました。

感じたことや思ったことはX(Twitter)で簡単につぶやいて済まそうと考えていたのですが、ひょんなことから主宰であり作・演出の福谷さんからリプライをいただきnoteを書くよう促されたので、社交辞令かもしれないと思いつつ筆をとります。

劇評とは言いません。感想とも言いません。「感想っぽい何か」です。

ネタバレ前提の記事になるので、配信でご覧になる予定の方はお気をつけください。

よかった点

まず言っておきたいのは、とてもおもしろくて、興味深い作品だったということ。

福谷さんの脚本は構成が素晴らしく、いつも唸らされますが、今回もそれは健在でした。

観客は「ウジはいないけど、いる」というギミックの正体を探りながらこの劇を追うわけですが、最終的に「答えが出ないことが答え」にたどり着くまでの過程がしっかりとひとりの人間の思考に沿っている、登場人物それぞれの想いを追体験したうえで「では、あなたはどうですか?」と提示する、そのつなげ方が見事だったと思います。

こういう「答えが出ないことが答えです」みたいなのって、けっこう台詞でそのまま説明してしまいがちで。
そうじゃなくても、構造で示すのはかなり技術の求められる難しい技だと思うんですよね。

そこがさすがは福谷さんで、改めて尊敬するなぁと思いました。

当日パンフレットや目の前に広がる舞台美術ですでにギミックを提示しているのも含めて、かっこいいですよね。
なんだか、遊園地に来たようなワクワク感があって、匿名劇壇のそういうところがめちゃくちゃ好きです。

エンターテイメントだなーと。

これは、俳優陣の実力だったり、劇団全体のグルーブ感だったりで実現できている部分も大きいと思うので、そのへんもすごいと思います。

途中ちょっと中だるみするシーンはあるものの、それは序盤をミステリー仕立てにしたせいで、意図は伝わったので気になりませんでした。

むしろ、やりたいことをやろうという姿勢に好印象を抱いたかな。

僕は福谷さんがやりたいことをやってるときの作品が好きなんですよね。

もちろん、大なり小なりどの作品でもチャレンジしているとは思いますが、個人的に原体験として旗揚げ公演の『HYBRID ITEM』、そして続く『PUNK HOLIDAY』があるので、あのときのような荒々しさとまではいかなくても、やっぱり「大勢には理解してもらえないかもしれないけど、俺はこれをやるぜ!」といったスピリッツを目撃したいなと願っています。

そういった意味で、今回やりたいことをやって、手ごたえもあったのにまわりの反応が芳しくなかったと嘆いている福谷さんを見て、X(Twitter)に気になった点を投稿していた僕は「ああ……彼の挑戦を心から応援できなかったんだ……」と反省したんですね。

なので、思わずその旨をつぶやいてしまいましたし、「note書きなよ」と言ってもらえるなら書いて、すこしでも力になりたいと思いました(なってるのか?)。

気になった点

さて、反省したと言っておいてなんですが、せっかくなので、さらっと気になった点も挙げておきます。

上記の通り、いじめ等の社会問題への手触りですね。

これはわりと感覚的な話になるので文章にするのが憚られる箇所でもあるのですが、ひたすら頭で考えたことが表現されていると感じて、あまり印象はよくなかったです。

この投稿のちょっと後だったかな?
タイムラインに流れてきたツイートにこんなものがありました(知り合いの知り合いなので、名前を伏せて、埋め込みもしません)。

ぼくは福谷さんの脚本の「分からないことは分からないけど分からないにしても分かろうとし続けないとダメな気がするし、分からなかったとして自分の理解が及ぶ“分かった”の枠に分からないを当て嵌めることをしたらいけないんじゃないのか」みたいな理性にいつも安心を貰っている気がする。

おっしゃることは理解できます。
「わかろうとし続けないといけない」のはそうだと思います。

ただ、僕はわからないならわからないで、きっぱりと「わかりません」と言える人が好きだし、信頼できるんですね。

「自分の理解が及ぶ“わかった”の枠にわからないをあてはめることをしたらいけないんじゃないのか」という考えで物事を突きつめていくと、どうしても「わかった風」になってしまうのでは……と一抹の懸念を抱きます。

と、ここまで書いて気づきました。
『いないいないなぁ!』で描かれる社会問題への手触り、その違和感の正体。

「ポーズ」になっているのだと思います。「こんなに考えていますよ」という「ポーズ」。

作家にそういうつもりはないのでしょうから、ここに言及するのも容易いことではありません。
「じゃあ、どうしたらよかったの?」と問われても、明確な答えを持ちあわせておらず……。

「実感するなんて難しい、あるいは無理だと思うものの、扱うからにはもう少し覚悟がいるのではと、でも覚悟ってなんだと、自問自答してしまった」と書きましたけど、本当にそうとしか言いようがないです。

これは引きつづき、僕の課題として心に留めておきたいと思います。

あとひとつ付けくわえておくなら、「『気持ちいい教育』でもそうだったが」と書いていますが、あのときと同じことをくり返したとは思ってないです。

『気持ちいい教育』は、技巧派である福谷さんがエンターテイメントに仕上げる弊害として「いじめ」に対するピントがぼけてしまった感がありますが、今回はそこはクリアされていたと感じるからです。

なので、当然といえば当然なのですけれど前進はしていて、次に似たような題材を描くときは、また新たな顔を見せてくれると信じています。

その他

最後に台詞まわしの件ですね。

福谷節と言ったらいいのでしょうか、あれに一種の気恥ずかしさを感じるようになってしまいました。

単純に、歳なのかしら?

おもしろい言い方とかたくさんあって、「エモい」のですが、その「エモさ」ゆえに恥ずかしくもなるんです。

スピードワゴンの「あまーーーーーーーい!」に近い感覚。

でも、たぶんこれは歳だと思います。

福谷さんがあえてそういう方向に舵を切ってるのかも、と考えましたが、なんとなく違う気がするので……。

きっと、その甘さを楽しめばいいのだと思います。

これはマジで、ただの感想です、すみません。

おわりに

……とまあ、つらつら書きましたが、僕は『いないいないなぁ!』を観られてよかったと思っています。

個人的な話をすると、匿名劇壇の観劇は(も)じつに10年ぶりで、楽しみに楽しみに劇場まで行ったんですね。

その期待を裏切らない作品だったんじゃないかと。

福谷さんと一緒に劇団そのものが着実にステップアップしているのを感じますし、そこに居合わせることができてたいへんうれしいです。

受けとった刺激を胸に、僕も演劇活動をがんばりたいと思います。

ありがとうございました。

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