忘れがたいある昧爽
気のおけない人たちとレンタカーに飛び乗って、留学前夜、旅は静かに始まった。
移り変わる見慣れた景色を、ただただ目に焼き付けた。
まるで走馬灯のようだった。今日を境に生まれ変わるのかと疑いたくなるほどに、私の軌跡を総復習しているようだった。
思い出の地をあちこち巡り、ようやく目的地へ走り出すと、夜が明けていった。見つけたコンビニで休憩をしながら、悲しいのか嬉しいのかわからない感情が飽和した中に私はいた。プールに潜っているみたいに、音がぼんやりとしか入ってこなかった。世界をぐんと遠くに感じた。夜の名残を含んだピンク色の空は、このまま永遠に不思議の世界を車で走り続けていくように思わせた。
空港に着くと、旅の終わりを感じた。そこには朝があった。
新しい旅の始まりを知って、パンパンの水風船が弾けるように、涙がこぼれた。
嬉し涙だった。
一つの人生の終わりにあった、あの昧爽を抱いて、歩いていける。そう思った。