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むすめは熊野で××をさけぶ

『かか』 宇佐美りん 読了レビューです。

文字数:約1,200文字 ネタバレ:一部あり


・あらすじ

 19の浪人生うーちゃんは、かかの手術に立ち会いません。

 たぶんそれはにくくて、あいしているから。

 そんなうーちゃんはかかを産みたくて、にんしんしたかったのです。

・レビュー

 この物語を一言で表すなら、手術当日の母を思いながら熊野を歩く娘の話、というものだ。

 結末を読むと「え?」と変顔になってしまうだろうし、聖母マリアの処女懐胎みたいな奇跡は起こらない。

 本作を特殊なものに感じさせる理由が2つある。

 標準語のようで少し異なる方言が混じり、主人公のうーちゃんが「おまい」に語るという形式なもので、ひたすら朗読を聞かされているような気分になる。

 おまい、というのはうーちゃんの弟なのだけど、物語の主人公ではないために人物像が不明瞭で、始めは読者への呼びかけのように思った。

 うーちゃんの父、ととは母と離婚しており、亡くなった姉の子供と祖父母のジジとババ、それに犬のホロを合わせた5人と1匹で暮らしている。

 でもジジの描写は思いつく限りないし、ととは離婚しているので登場するのは少しだから、薄ぼんやりともやがかかったような印象というか。

 それによりSNSでのうーちゃんのやりとりが鮮明になると思いきや、直接でない空リプが多くて、これまた煙に巻かれているかのような。

 ただし母を、かかを産みたいと言うくらいなので、とくに次の部分は強烈だ。

 ……うーちゃんはにくいのです。ととみたいな男も、そいを受け入れてしまう女も、あかぼうもにくいんです。そいして自分がにくいんでした。

 自分が女であり、孕まされて産むことを決めつけられるこの得体の知れん性別であることが、いっとう、がまんならんかった。

 男のことで一喜一憂したり泣き叫んだりするような女にはなりたくない、誰かのお嫁にも、かかにもなりたない。

 女に生まれついたこのくやしさが、かなしみが、おまいにはわからんのよ。

55~56頁
(原文に改行を加えた)

 これを語る相手の「おまい」は弟なので、当然うーちゃんの憤りを完全には理解できないだろうし、何かしら返答する描写もないので一方的に殴られるだけというか。

 母を憎んでいるであろうに、なぜか「にんしんしたい」となる理由は母と娘だからなのか、憎さが反転しているためか、はたまた手術を控えているためなのか、それらすべてか、正直よく分からない。

 ただ、私自身も母が同じような手術をしてひどく奇妙な感覚に陥り、うーちゃんの気持ちが体毛1つくらいは理解できる。

 女になる儀式のようだ、と語る剃毛についても刺さる人には刺さるだろうし、本作の魅力はそうしたものだと思う。

 もしも男性が本作を読んで、どういった感情を抱くのか知りたいものだ。



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