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出来の悪さが愛しくなる……かも?

『直立二足歩行の人類史 ~人間を生き残らせた出来の悪い足~』
著:ジェレミー・デシルヴァ 訳:赤根洋子
読了レビューです。

文字数:約2,000文字 ネタバレ:一部あり


 本書はサブタイトルにある「出来の悪い足」に惹かれたなら、きっと楽しく読めるだろう。

 生まれて1年かそこらの幼児ならともかく、私たちは当たり前のように歩いており、それを支える足の良し悪しなど普通は考えない。

 だが、今の人類が現在の歩き方を会得したのは、西暦が始まるよりもずっと大昔のことであり、ある日を境にして急に歩くのが上手くなったわけでもない。

 人間が現代に到る進化を左から右に向かって示した、とても有名なイラストがある。

 そこには多くの動物が行う四足歩行から、少しずつ直立した二足歩行へと変化していく姿が描かれ、現代を表す右端には服を着た人間や、あるいはパロティとして別の姿に置き替えられたりする。

 しかし著者が主張するのは、「人類が始めから二足歩行をしていた」というものだ。

 発掘された骨の形状や年代測定から、木の上や木から木への移動で行われており、今の歩行とは異なる非効率なものだったらしい。

 それでも従来の四足から二足の一方通行な進化ではなく、ある集団は二足歩行を強化した一方で、別の集団は四足歩行になったとしており、そうした柔軟な視点で語られるのがおもしろかった。

 ◇

 私をふくめて二足歩行は人間だけのものと思いがちだけど、公園に集まるハトやスズメは二足歩行であり、残る腕は空を飛ぶための翼として使われている。

 私は本書に指摘されるまで忘れており、「たしかに!」と声に出していた。

 かつて地球上の覇者となった爬虫類、恐竜は二足歩行をする種類がいたし、現在では空を飛ばないガチョウが人間には出せない速度で走る。

 二足歩行の大先輩である彼らと比べて、いくらウサイン・ボルトが人類最速でも、鳥類からすれば話にならないと著者は切りすてる。

 シンプルな運動能力では負けるけれど、自由になった手が今の人類を作ったのは間違いない。

 ただし、初期の歩き始めたばかりの人類の足は手と同じような作りで、ものをつかめる代わりに歩くのには向いていなかったらしい。

 短い距離の移動ならそれで十分なわけで、チンパンジーやクマなどの四足歩行の動物も、短時間であれば二足歩行が可能だ。

 長く歩くためには「ものをつかむ」という能力を捨て、地面を蹴るのに適した形状とする他に、体全体の構造から変えないといけない。

 背骨が地面と垂直になるので頭蓋骨や脊椎、骨盤はもちろん、体重を支えるのが1/4で済んでいたのを1/2にするため、膝は異常とも思えるような作りになった。

 それこそが「出来の悪い足」であり、老化によって腰や膝などにトラブルが出ることが多く、スポーツ選手は下半身を痛めやすいとも聞く。

 リスクを抱えながらも二足歩行をするのには利点があって、四足歩行よりも消費エネルギーの点で優れており、最高速度は遅くても長く歩ける持久力を得たそうな。

 それにより現人類ホモ・サピエンスの祖先、初期のホモ属は約220万年前にアフリカを旅立つことができた。

 速くなくても長距離を歩けるのは、誇ってもいい能力なのだろう。

 骨から人類を読み解く一方で、命をつなぐための食物とその代謝に関する記述も興味深い。

 人間は尿酸を分解するウリカーゼという酵素を作ることができず、酒飲みが患いがちな痛風にかかる。

 およそ1,500万年前の突然変異が原因だそうで、悪いことしかないと思いきや、その特性があるからこそエタノール、つまり酒を飲んでエネルギーに変えられるそうな。

 世界各地に地域ごとの酒があり、噛んだ米で酒を作ったり、キリスト教ではワインが重要なものだったりする。

 人類ホント酒が好きだよなと思っていたけれど、そもそも遺伝子が変異したと知り、はるか太古の時代から運命づけられていたのかもしれない。

 ◇

 本書を読んでいると2023年の現在でさえ人類は進化の途上であり、たまたま恐竜が絶滅した後に繁栄した、ラッキーな役者の1人に過ぎないと痛感する。痛風じゃないよ。

 今あるものから使いやすく体を変化させるのが進化でも、両手が翼になった鳥人間は生まれない。

 SFの世界ならともかく、人類の祖先がそのように進化しなかったのは、ひとえに陸上での生活に適応した結果なわけで。

 自然界では有利な四足歩行を捨てることにより、こうした文章を書くような知性を得て、地球から別の星へと向かう宇宙の旅人になった。

 私たちは不完全な出来の悪い足をもっていたからこそ、現在にいたる文明を発達させたのだと思う。

 それは一振りすれば何でも可能な魔法の杖ではなく、地球という規模で見た資源の移動であり、原始宇宙の気まぐれが元になっている。

 本書で語られる人類史に興味を持ったのであれば、そこから足元にある地球史を学んでみるのもおもしろいだろう。


※ 版元の書籍ページが見つからず、note内の記事を引用させていただきました。

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