葉っぱ1枚あればいい
葉っぱ切り絵コレクション
『いつでも君のそばにいる』
小さなちいさな優しい世界
リト@葉っぱ切り絵
読了レビューです。
文字数:約1,600文字 ネタバレ:一部あり
・あらすじ
1枚の葉っぱに様々な世界を描く。
言葉では簡単だけれども、実際にやってみるのは難しい。
それでも彼はやってみた。
やり続けて、模索して、評価された。
これは1人の葉っぱ切り絵アーティストが切り抜いた、絵本みたいな作品集だ。
・レビュー
1枚の葉っぱから様々な図柄を切り出すアーティスト、リトの名前を見聞きしたのは数年前だ。
件の感染症が世界に広がり日本でも重症者が増え、イベントの中止や延期などが起こっていた。
そんな暗い世相に明るい光を当てたものの1つに、葉っぱ切り絵アーティスト、リトの存在があったように思う。
彼は1枚の葉っぱを切り抜いて、様々な世界を表現している。
その1点だけを貫き、磨き上げた技術の一端が本書には収録されている。
◇
以前に放送された「情熱大陸」において、作品を制作する様子などが取り上げられていたけれど、図柄の元となる下絵を描くだけで3時間をかけていた。
そこから葉っぱを使った制作にはさらに5時間かかり、やっと1つの作品が完成する。
それを毎日のようにSNSに投稿することで、「葉っぱ切り絵をする人」という地位を確立した。
作業そのものはシンプルだけれども、飽きずに集中し続けられる忍耐力が必要だ。
彼は注意欠陥・多動性障害、頭文字を取ったADHDの特性を有していると公表しており、始めこそ会社員として就職したものの失敗続きで、30歳から先の人生をどうするか悩んでいたそうな。
そこで始めてアートを仕事にしてみようと思い立ち、様々なものに挑戦した中に切り絵があったそうで、先の番組では非凡なイラストも紹介されていた。
まったくのゼロから切り絵を始め、今に到るまでの努力は途方もないけれど、たぶん本人が楽しいと感じていることは間違いない。
◇
作品集に収録されている中で、とくに気に入ったのはイチョウの葉を使った作品だ。
葉っぱの色と形を活かしつつ、秋には見かけにくい蝶を選ぶ発想力は、まるで底の見えないおもちゃ箱のようだ。
そうしたものは一般的な多くの会社員にとって不要であり、物忘れや要領の悪さを抱えながら、使えない人間として仕事にしがみつく選択肢もあっただろう。
けれど会社員としての自分に見切りをつける一方で、これからはアートを仕事にすると決め、目標に向けてひたすら努力できる才能は抜きんでていた。
先の「情熱大陸」では過去作品のアップデートにも挑戦しており、それを見れば誰にでも彼の成長が分かるだろう。
◇
私自身、軽度ながら発達障害とされる判定を受けており、要領の悪さやストレス耐性の低さなど、いわゆる「普通に働くこと」が難しい。
そんなときに彼の存在を知り、出身が同じ神奈川県横浜市であることや、ゼロからアートを始めた経緯に勇気づけられた。
もちろん発達障害だからといって、彼のように誰もが活躍できるわけではないし、普通に生まれていたらどんなに良かったかと思う。
それでも今あるものを活かし、自分なりのやり方で活躍できるなら、それは人生そして世界を肯定するための一助となる。
彼の作った吹けば飛ぶような1枚の葉っぱ切り絵では、この世界は変わらないのかもしれない。
でも私は、発達障害グレーゾーンという谷間に住む私は、切り絵の描く可能性に照らされ、生きる希望を得られた。
きっと彼の作品を見て、人それぞれに思い描くものがあるだろう。
それが私の感じた光と同じものであるようにと、1人の普通ではないが、かといって異常ともされない人間は願っている。
ちなみにタイトルの元ネタはコチラ ↓ YATTA!