「健常者には分からん」と言われたら?
【文字数:約2,000文字】
原作 田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』の劇場版アニメーションを観た。
本作は今から約20年前にあたる2003年には、監督 犬童一心による実写映画にもなっている。ただ、主人公のアルバイト先が雀荘ということで、アニメ版のダイビングショップとは印象がずいぶん異なる。
本作を観たのは映画館ではないけれど、他の作品を観に行った際の展示が印象に残っていた。
ヘッダー画像のように水槽が作られており、近くにある水族館とのコラボレーション企画だった。これは作中で描かれる場面の再現で、実際に水族館も登場することから実現したのだろう。
けっこう気になっていたのか、ポスターの写真もあった↓
ちなみに作品の舞台は大阪のようで、「しばくぞ」などのキツい言葉が出たりする。
本稿は同作品を気に入った人間による自己満足であり、読む価値があるかを保証することはできない。
◇
本作の主役は大学生の恒夫と、ジョゼこと山村クミ子の2人なのだけど、名前に原作の発表された1984年という時代を感じさせる。
およそ35年後の2020年にリメイクされるにあたり、現代的にアップデートされた物語は原作から漂う終末感を消し去り、いささか綺麗すぎるようにも思う。
ただ、先天的な下肢麻痺により車椅子を使うジョゼが、何ら身体に問題のない「健常者」から疎まれる場面を日和らずに描いており、おそらく障害者との共存を主題にしているのかもしれない。
同様のテーマだと、こちらも劇場版アニメーションになった、原作 大今良時『聲の形』やドラマ化された、原作 うおやま『ヤンキー君と白杖ガール』が思い浮かぶ。
近年になって障害者に合理的配慮を、という話を見聞きするようになったと思う。私自身では全盲や聾唖、車椅子の人と接したことがあり、本人と家族を含めたやり取りは強く印象に残っている。
本作では健常者の代表のような存在として、恒夫が働くダイビングショップの同僚、舞が登場する。
恒夫に付き添われて来店したジョゼに、彼女は次のように話しかける。
「私にできることがあったら何でも言ってくださいね」
親切な対応には間違いないけれど、その言葉の奥には無意識の見下しが潜んでいるのではないだろうか。
たぶん彼女は、次のように語りかけるのが良かったのではと。
「ジョゼさんもダイビングに興味あるんですか?」
もちろん相手によっては、「車椅子なのに」という隠された枕詞を読み取って不快に思うかもしれず、なるべく前向きな表現に変えるなら、
「さっそく海に行ってみましょうか?」
とするのが正しいのかもしれない。
◇
ある出来事をきっかけにして、恒夫とジョゼは一緒に出かけることが増えていく。そんな矢先にジョゼ唯一の保護者だった祖母が亡くなり、彼女は1人で生きていく必要に迫られる。
本作の良いところは恒夫の留学を知ったジョゼが、「最後の頼み」として2人の思い出の砂浜に向かい、
「健常者には分からん」
と言い残して去る場面だ。この認識を言語化したのは素晴らしいと思うし、なぜ分からないのかと考えることが始まりになる。
さらにこの後、恒夫は事故に遭って車椅子を使うことになる。この健常者が障害者に入れ替わる展開は、非常に画期的だ。
実際に目隠しをしたり車椅子を使ってみることで、健常者だけでは気づけない町の課題を洗い出す取り組みがあるらしいけれど、それと同じものだと言っていい。
健常者と障害者の関係は、持つ者が持たざる者に施すような、どこか一方的なものとして描かれやすい。
それは仕方のないことかもしれないけれど、もどかしさがどうにも拭えなかった。
事故で同じ立場になった恒夫を励ますのがジョゼで、特技を活かして失意の彼を見事に立ち直らせてから、ひっそり姿を消そうとするのがまた良い。
「甘えてたらあかん。1人で虎と戦うんや」
依存し過ぎて相手が疲弊するというのは健常者にも多いけれど、ジョゼは恒夫から独り立ちしようとする。もちろん心理的な意味で。
そのまま2人の人生は離れてしまうのかと思いきや、恒夫はジョゼの車椅子が残した雪の轍を頼りに、まだ万全とは言えない足で追いかける。
たぶん健常者の足ならすぐ再会できただろうに、杖を使う恒夫にはジョゼが遠くて、なかなかどーして追いつけない。
このもどかしさが大変に良い。
最後に2人が始めて出会ったときと同じ展開で再会し、エンディングに到ると。
◇
駆け足で自己満足な紹介を読んで、本作に興味が起こるか私には分からない。
そういえば聴覚障害の家族を描いた、「Coda コーダ あいのうた」にも興味がある。
自分にはない視点で、どのように世界を見聞きしているのか知りたい。それを配慮とは呼ばないだろうし、正しくは興味とするべきだろう。
たぶん仲良くなれない人がいるのは、健常者も障害者も変わらないと思う。
それでも存在しないものとして扱わず、何かしらを学ぶつもりで捉えていたい。
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