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べつに役立たない

『べつに怒ってない』 武田砂鉄
読了レビューです。

文字数:約1,200文字 ネタバレ:一部あり


 本書は1つあたり1,000文字くらい、きっかり2ページのエッセイがひたすら続くという構成だ。

 その内容は「これは斬新だ」と感心するのがあると思えば、あまり響かずに「ふーん」と流してしまうものなど様々で、人によっては金返せと憤るかもしれない。

 明確なテーマ設定のあった同著者による、『マチズモを削り取れ』や『わかりやすさの罪』を読んだけれど、今回に関してはそういった指針が見当たらない。

 そのために著者のファン向けとして捉えるのが適切と思われ、この人いつも変なこと考えているな、という感じで楽しむのが良いだろう。

 とはいえ、まがりなりにもエッセイ集なのだから、印象に残った話をいくつか引用してみる。

 タイトルと同じ「べつに怒ってない」の項では、悟りを開いているかのような著者の姿勢が垣間見える。

 そもそも、勢い任せに誰かを怒って、そこにある問題が改善に向かったことって、人類の歴史において存在したのだろうか、とよく思う。

 自分は、人に対して、感情的になって怒ったことが一度もない。

 ある人はそれを、無関心な人だ、と冷たく称したのだが、人への関心として「怒鳴り散らす」という選択肢ばかり選ぶ人からそう言われれば、むしろ無関心を大切に維持したくなる。

 そのほうが平和だと思うから。

「べつに怒ってない」 20頁
原文に改行を加えた

 ファミレスに焦点を当てた「レジ周辺のオモチャ」は、欲しくないのに欲しい気になってしまう心理と、無駄遣いについて書いている。

 無駄遣いはよくない、と教えてくれる存在は無駄ではない。あそこでオモチャをせがむ様子を見かけるたびに思う。どうでもいいトラクターの模型は大切な学習になる。

「レジ周辺のオモチャ」 146頁

 この指摘を「たしかに」と頷いてしまう私は、子供の頃から無駄遣いをすることが多く、だからこそ「無駄でないもの」を真剣に考えるようになった気がする。

 本書には他にも様々な項があるけれど、最後に面白いと強く感じた「三年前の夏のこと」を引用して終わる。

 先日、駅の改札で喧嘩しているカップルがおり、特に珍しいことではないから気にせず通り過ぎると「あの三年前の夏のことだけどさ!」という、ドラマのセリフのようなコメントが耳に入ってきたので、立ち止まる。

 男がそう言うと、女は「ああ、覚えているわ!」と、これまたトレンディドラマのようなセリフを返した。

「あの三年前の夏のことだけどさ!」
「ああ、覚えているわ!」

 当然、この続きが気になるわけだが、二人は睨み合ったまま、何も言わない。告白して付き合うことになった三年前の夏、どちらかの浮気が発覚した三年前の夏、いずれにせよ、何かがあった夏……。

 TUBEなら、二曲は作れる。

「三年前の夏のこと」 162頁
原文に改行を加えた





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