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すべてのものは闇を持ち、それは光の裏返し

『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』 横田増生
読了レビューです。
文字数:約1,600文字 ネタバレ:一部あり


 ネット通販といえばamazonであり、俗に「ポチる」とはamazonでの注文をそう呼ぶことが多い。

 何かしらの商品名で検索すれば、ほぼ確実にamazonの商品ページが出るし、本書においてもそれは同じだ。

 その他にもギフトカードは、ここnoteを始めとした企業からの当選金として使われることが多いし、俗に「干し芋」と呼ばれる「ほしいものリスト」を公開して、ファンなどからのプレゼントを期待する仕組みも普通になった。

 私自身、これまで様々なものをamazonで購入してきたし、自由に使えるお金には制限があるため、その圧倒的な安さに助けられてきた。

 ただ、すくなくとも2020年あたりからヨドバシカメラの通販サイトを使うようになり、バイク用のスペアパーツといった、ニッチな商品を探す以外では使わなくなった。

 注文したものを配達する人々が低賃金、長時間での労働を強いられていると知り、本書でも取り上げられている倉庫内における作業者が亡くなり、発見や救急車の到着が恐ろしく遅かったという話も聞いていたからだ。

 たまにそうした報道を見かけるものの、おそらくamazonが消滅することはないし、クラウドサービスのAWSが吹っ飛んだら世界は大混乱に陥るだろう。

 それでもamazonの姿勢にYes/Noという態度で臨むなら、本書を読んで損はないと思う。


 本書を書くにあたり、著者は神奈川県の小田原にあるamazon物流センターに勤務し、過去には千葉県の市川塩浜にある同センター(移転前)でも働いたそうな。

 会社の運営を担う役職ではないため、注文された商品を集めて梱包する、末端と呼んでいい現場からのレポートだ。そこには1日で20km弱を歩く計算になったとあり、想像以上に過酷なことが分かる。

 作業者が棚の間を移動する方式ではなく、ロボットが棚を持ってくる方式も紹介されているのだけど、それはそれで「部品の一部みたいだ」という話が書かれていた。

 amazonの本国であるアメリカでは、キャンピングカーで暮らしながら季節労働者としてセンターに勤務する、映画『ノマドランド』のような人々がいるそうな。

 また、宅配ドライバーの悲哀を描いた『家族を想うとき』と関連する事例もあった。


 本書のタイトルからすると確かに闇もあるのだけれど、創業者ジェフ・ベゾスの生い立ちを紹介した章を読むと、何かしら特別な教育を受けたとかもなく、秀才ではあったけれど良くも悪くも「普通の人」という印象だった。

 それに大学で英文学を専攻したのは「子どものころからの夢だった小説家になるため」だったそうな。

 確かに労働者への扱いや税金の回避といったものは悪だと思いつつ、企業価値を高めようとするのは当然かつ当たり前だし、良いものを安く速く手に入れられるなら、消費者にとって良いことなのは間違いない。

 もちろんそれによって書店や商店といった、リアルな店舗がダメージを受けるのは避けられない。

 かといってamazonだけが残ったら、競合他社を考える必要がなくなって「好きなように」するだろう。


 一般人からすると通販といえばamazonだけど、利益の大半はクラウドサービスのAWSやマーケットプレイスなどの手数料が占めているらしい。

 場所を提供する代わりに手数料を取るのはYouTubeも同様で、デジタル赤字の例として取り上げられていたし、どうにか依存度を下げられないものだろうか。

 そんなことを考えながら、有料会員のアマゾンプライムで観られる映画は多いし、電子書籍の導入を考えたときもKindle端末を買おうか悩んだ。

 もはや包囲網の中にいるような状況で、わざわざ抗おうとするのはムダなのかもしれない。

 ただ、何も知らず考えずに肯定するのではなく、かつて小説家を目指していたらしいジェフ・ベゾスのように、思考して行動する人間でありたい。




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りんどん
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