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第124回/越川慎司『世界の一流は「休日」に何をしているのか』



「休み方」が人々の関心を集める理由

PHP研究所のビジネス月刊誌『THE21』が、最新号(2025年3月号)で「休みたいのに休めないリーダーを救う『休養術』」を大特集しています。

また、今回取り上げる『世界の一流は「休日」に何をしているのか』は、昨年(2024年)11月の発売からわずか3ヶ月で10万部突破のベストセラーになっています。

ビジネスシーンでいま、賢く効率的な「休み方」が、人々の大きな関心を集めているのです。その背景には、日本のビジネスパーソンの「休み下手」があります。

欧米のビジネスパーソンが休日やバカンスを重視するのに対し、日本では高度成長期からずっと、モーレツに働くことのほうが重視されてきました。休日返上で働くようなワーカホリックぶりが、むしろ称賛される時代が長く続いてきたのです。

近年の「働き方改革」や、ワークライフバランスを重視する論調の高まりによって、そうした傾向は弱まってはいます。それでもまだ、日本人は総じて「休み下手」、言い換えれば「休みを重視して生きることに慣れていない」のでしょう。

そのことを裏付けるデータが、本書に次のように紹介されています。

 一般社団法人日本リカバリー協会が発表した『日本の疲労状況2023』(全国の20~79 歳の男女10万人に調査)によると、「元気」と回答した人が 21・5%だったのに対して、 78・5%の人が「疲れている」と回答 しています。
 その程度や頻度に個人差はあっても、日本人の約8割が「疲れ」を感じている……という実情が明らかになっています。

「働き方改革」で就労時間は減り、休日も増えたのに、約8割の人は十分に休めておらず、疲れが取れていないのです。

本書も、そうした状況があるからこそ発刊され、ベストセラーになっているのでしょう。

欧米との比較を踏まえた「休み方改革」のススメ

著者の越川慎司(こしかわ・しんじ)氏は、国内外の通信会社に勤務した後、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。同社では業務執行役員として、PowerPointやExcelなどの事業責任者を歴任しました。

その後、2017年に株式会社クロスリバー(社名は「越川」の英訳でしょうか)を設立。創業社長として、これまで800社以上の働き方改革を支援してきました。氏の著書は本書を含め31冊に及び、ベストセラーになったものも少なくありません。

ちなみに、『理念と経営』では、2022年7月号の特集「会議革命」に識者としてご登場いただいたことがあります。
当連載でも、第19回で氏の著書『超・会議術――テレワーク時代の新しい働き方』(技術評論社)を取り上げました。

本書には、越川氏が間近に見た「世界の一流」の休日の過ごし方が紹介されています。そして、日本との“休み方格差”を指摘したうえで、ビジネスパーソンに「正しい休み方改革」を勧める内容なのです。

「はじめに」には、次のようにあります。

 私が本書を執筆した一番の目的は、働き方改革の先にある「正しい休み方改革」 の実践法をお伝えすることで、心身のバランスを整えて、ワークとライフの両方の充実を図っていただくことにあります。


「世界の一流」たちは、休むために仕事をする

では、「世界の一流」と日本の平均的ビジネスパーソンでは、「休み方」がどう違うのでしょう? 第2章《ここが違う! 「世界」の休日と「日本」の休日》に、詳しく解説されています。

 世界のトップクラスのビジネスパーソンとの交流の中で、私が最もインパクトを受けたのが、彼らの休日を大事にしている姿勢です。
 日本のビジネスパーソンは、休日を休息の時間と考えて、平日の疲れを癒すことを優先しがちですが、彼らにとっては、休日こそが主役であり、平日の仕事は大事な休日のためにある……と考えているのです。

もちろん、日本でも「休日こそが主役」と考える人は多いでしょう。しかし、そのことを会社では大っぴらに言いにくいと思います。日本では、《令和の時代になっても、休むことに対して、何となく「後ろめたさ」や「申し訳ない気持ち」を感じている人が多いのが実情》だからです。

そのような“世間の目”の違いに加え、休みに向き合う姿勢も彼我で大きく違うと、著者は指摘します。

世界に約300人いるマイクロソフトのバイスプレジデントたちを観察して、越川氏は彼らの休日の過ごし方の共通点に気付きました。

 一つは、土日の休日を、次の1週間を成功に導くための準備期間と考えて「自己再生」(本来の自分を取り戻す)を意識していること。 
 もう一つは、スポーツや趣味、家族や友人とのバーベキューやキャンプなどを楽しむことで、身体と心、脳のリフレッシュを図り、次の1週間に向けて、エネルギーを「チャージ」(充電)していることです。
 彼らは休日を休息のための時間ではなく、仕事で成果を上げるための「原動力」と考えているのです。


ひるがえって、日本はどうでしょう?
《日本のビジネスパーソンは、体力を削るように仕事をしていますから、週末が近づくにつれてグッタリとしてきて、土日の休みを疲労回復のための「休息の時間」と考えがちです》と、著者は指摘します。
前述の通り、約8割の人が「疲れている」と答える状況ですから、「休息の時間」としても奏功しているとは言いにくいでしょう。

日本のビジネスパーソンは休日をダラダラ過ごしがちなのに対し、欧米のエグゼクティブは「次の休日に何をするか」という明確な目的意識を持っているのです。

「時間自律性」と「自己効力感」が大切

「世界の一流」の休日の過ごし方を象徴するキーワードとして、本書では「時間自律性」と「自己効力感」の2つがくり返し登場します。

「時間自律性」とは越川氏の造語で、「主体的に時間を使うこと」を指します。

 休日とは、他人から評価されることのない自分軸の時間です。
 自分が主役の時間を自分がコントロールして、自分が選んだことをやっている……という感覚が、生きがいや働きがいに大きく影響します。

そんな一節があるとおり、「時間自律性」を保つことが、休日を有意義に過ごす大切なポイントなのです。

もう1つの「自己効力感」(Self-efficacy)は、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「自分ならできる」「きっとうまくいく」という自信の感覚のこと。それは仕事と向き合うためにも、幸福を感じるためにも重要な感覚なのです。

本書では、第3章が《世界の一流は休日に「自己効力感」を高める》と題されています。自己効力感こそ「正しい休み方」の要諦であることが、掘り下げられているのです。

《世界の一流が休日に自分の趣味を楽しんでいるのは、休日を通して「自己効力感」を高めようと考えていることに理由があります》――彼らにとって、趣味は自己効力感を高める重要な手段でもあるのです。

休日に「何もしないこと」を好み、ただダラダラ過ごすのも、もちろん個人の自由です。しかし、それでは時間自律性がなく、自己効力感も高まりません。
逆に、「ああ、また無駄に休日を過ごしてしまった」という自己嫌悪と後悔が残りがちでしょう。

時間自律性と自己効力感の有無――それこそが、「世界の一流」と日本のビジネスパーソンの休日の過ごし方の違いなのです。

土日を使い分けてメリハリを

時間自律性と自己効力感を高める休日のポイントが、本書では具体的に解説されていきます。そのために推奨されているのが、土曜と日曜を戦略的に使い分けること。

 日本のビジネスパーソンは、土曜と日曜を「仕事がない2日間の休み」と考えて、「連続した休息のための休暇」として過ごす傾向がありますが、世界の一流は、土曜と日曜を「別々の独立した休日」 と考えています。

土曜を「チャレンジデー」、日曜を「リフレッシュデー」と捉え、意識的に異なる過ごし方をするエグゼクティブが多いそうです。

たとえば、土曜には自分の趣味や家族・友人との交流、新たな人間関係を求めてのセミナー参加など、外に出て積極的にチャレンジする。
一方、日曜には《運動や読書、ヨガや瞑想などを通して、身体とメンタル、脳のリフレッシュを図る》……という具合です。

そのように、土日をアウトドアとインドア、交流と内省、動と静の二極に振り分けることによって、メリハリをつけると同時に、「教養と休養」の両方を満喫する2日間にするわけです。

いまは多くの企業が週休2日ですから、そのような土日の使い分けは是非とも心がけたいところです。

「経営の神様」松下幸之助は、日本における週休2日制の生みの親でもあります。松下電器(現パナソニック)は、他社に先駆けて週休2日制を導入したのです。
背景にあったのは、幸之助が提唱した「一日休養、一日教養」の考え方でした。「教養がなければいい仕事はできない。しかし、普段は忙しく、時間が取れない。だから1日は休養、そしてもう1日は教養の時間にせよ」と、幸之助は説いたのです。

土日を戦略的に使い分ける「世界の一流」たちは、それと同じ休日哲学を共有しています。
しかし、日本のビジネスパーソンの多くは、幸之助の言う「一日休養、一日教養」の休み方ができていないようです。

中小企業経営者の皆さんには、本書で“自己効力感を高める休み方”の要諦を学んでいただきたいと思います。そして、それを社員たちにも教え、会社全体で「休み方改革」を推進していってください。

本書には、次のような一節もあります。

 休日の過ごし方と仕事の生産性には、密接な関係があります。
 リクルートワークス研究所の調査によると、休日に趣味や交友関係を充実させている人は、仕事のパフォーマンスが高いことがわかっています。
 心身ともにリフレッシュできる休日を過ごすと、仕事への意欲や集中力が高まり、結果として生産性の向上につながるのです。

「休み方改革」は、業績アップにも直結しているのです。

越川慎司著/発行:クロスメディア・パブリッシング、発売:インプレス/2024年11月刊
文/前原政之

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