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「経営にいきる映画」第10回『燃ゆるとき THE EXCELLENT COMPANY』(2006年日本/細野辰興監督/114分)

文/前原政之

米国市場という戦場に挑んだビジネスマンたち

企業小説の第一人者・高杉良さんの同名ベストセラー小説の映画化。
ただし、直接の原作となっているのは、『燃ゆるとき』の続編『ザ エクセレント カンパニー /新・燃ゆるとき』です。

「マルちゃん」ブランドのカップ麺で知られる東洋水産をモデルとした、「東輝水産」の米国進出劇を描いた映画です。

アメリカ人向けにカップ麺を製造・販売する同社の現地法人「サンサン・インク」が、経営不振に陥ります。その立て直しを担い、日本から現地に単身赴任するのが、主人公・川森潔(中井貴一)――。

しかし、サンサン・インクが米企業による乗っ取りの標的となるなど、幾重もの苦難が待ち受けていました。
米国市場という戦場に挑んだビジネスマンたちの奮闘を描く、本格的な「企業映画」です。

日本型経営と米国型経営――その衝突と和解の物語

日本のカップ麺はいまや、世界中で親しまれるグローバル・ファストフードです。そこに至るまでには、先人たちの道なき道を拓く苦闘がありました。これはその一端を描いた映画といえます。

サンサン・インクのカリフォルニア工場を眺めながら、幹部(中村育二)が「このちっぽけな工場で作ったものがアメリカ全土に……。夢でしたね」と言うと、深井社長(鹿賀丈史)は「たかがラーメンかもしれんが、我々の英知の結晶だ」としみじみ答えます。

このシーンが示すように、社員たちのカップ麺に向ける誇りと情熱が随所に描かれ、感動的です。

そしてそれは、カップ麺に限らず、電化製品から自動車まで、あらゆる日本メーカーが海外進出に懸けてきた情熱の、象徴的表現でもあるのでしょう。

また、この映画は「日本型経営」と「米国型経営」の衝突と和解の物語でもあります。

川森は社長に、「うちの社風は合理主義一辺倒のアメリカの企業とは違い、入社したからには一人ひとり家族同様に扱うのが美点です」と、優秀なアシスタントであるキャサリン(サマンサ・ヒーリー)の管理職登用を提案します。

つまり、川森は現地法人でも日本型経営を貫くことによって、会社を再生させようとするのです。
そのことがさまざまな波浪を引き起こします。米国型合理主義に染まりきった幹部と衝突したり、セクハラの罠にハメられたり、ユニオン(組合)を悪用した乗っ取り工作と戦ったり……。

しかし最後は、サンサン・インク全体が日本型経営に徹することで「文化の壁」を乗り越え、現地従業員と一体となって再建を果たすのでした。
日本型経営にはマイナス面もありますが、この映画ではプラス面が描かれています。

原作者・高杉良さんがパンフレットのインタビューで言うとおり、「エクセレント・カンパニー」の条件とは、「まず、社員を大切にすること」です。この映画は、そのことを改めて痛感させます。

★ワンモア情報

ストーリーは原作から大胆にアレンジされています。たとえば、重要な役割を果たすキャサリンは、原作では脇役です。
原作者・高杉良さんは、「原作をはるかに凌駕する素晴らしい出来栄え」と高く評価しています。

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