百合姫読切感想・考察集17『響く声』
※ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーより、hosiart 様の作品を使用させて頂きました。この場を借りて感謝申し上げます。
夏本番といった暑さの日々が続くこの頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。私は仕事以外出来るだけ家から出ないようにしています。
外に遊びにいくのもいいのだけれど、この時期はとかくマスクと相性が悪い。マスクの下にかく汗がへばりついて不快になるし、かと言って外せない状況も多くあるので、じゃあ家にいればいいじゃんの精神で日がなダラダラと過ごしております。
というわけで、下手な導入はさておき、今回は百合姫9月号に掲載された、FLOWERCHILD先生の読切『響く声』について、感想を書いていきたいと思います。
あらすじ:真夏でも1人黒マスクを付けているプログラマーの響(ひびき)。物静かでミステリアスな彼女のことを、先輩のひかりは気になっていて...
・マスクを中心に置く意欲作
作者のFLOWERCHILD先生は数号前まで衝撃作『割り切った関係ですから。』を連載していた実力派。今作も、もはや人々の生活とは切っても切れない関係になったマスクを作品の中心部分に置いた意欲的な作品になっている。
初っ端から「それって外せないのかな?」というセリフを持ってくるのがまず面白い。現実社会を生きる我々にとって、このリアルと真逆の発言は誰しも大いに思うところがあるはずだ。リアルとの対比という意味で、このセリフは非常に新鮮さを持ったものと受け止められるし、独特の面白さを醸し出しているように思えた。
その一方、「この灼熱の夏にたった一人のマスク社員」という理由で槍玉に上げられる、という序盤の理由づけはやや弱さがあるように思う。勿論響の他の部分も相まってのことだろうし、背景に「灼熱の夏にも関わらず黒スーツにネクタイの社員」複数を配置することで、槍玉に上げられることの不条理さを演出していると思われるので、そこまで言うほどでもないかもしれないが...。
また、響の社内での立ち位置をもう少し明確にしてもよかったかもしれない。上記のマスク指摘も、マスクそのものが問題なのか、社内での孤立が一因なのか分かりにくい。ひかりが高嶺の花と表現している通り、同僚には密かに人気、などの描写を入れたほうがキャラクターの立ち位置が明確になった気がする。
・「好き」の言葉無しで両思いに
作中を通して、二人の間に「好き」を言い合ったり、まして「愛してる」などという言葉は一度も出てこない。それでは二人が両思いになったことをどのように表現しているかというと、やはりマスクがその役を担っている。
ひかりにとって響のマスクは、自身の同性愛嗜好を隠し、響へのアプローチを止める防壁のようなものであり、言い訳でもある。序盤の「言いなさいって...何を?」というセリフの時は響への注意ではなく告白の言葉が頭をよぎっただろうし、それを隠すために「外さなきゃいけない理由なんてない」「似合ってると思うし」とマスクを外させないように、ある種の「狡い」先輩を演じている。
一方響にとってのマスクの意味は作中でも語られた通りであるが、マスクをすることでひかりの側にいてもいいという、響なりの「狡さ」があったのだろう。マスクを付け、物言わぬキャラクターを作ることで、ひかりへの想いからも逃げ続けていた。
そんな響がマスクを取るということは、即ち告白と同義のことであり、ひかりからしてもマスクを取るという行為を受け入れるということ自体が、自身の同性愛嗜好、引いては響のことを受け入れるという言外のメッセージに他ならない。マスクを取るという一つの動作で告白を行い、同時に受けいれるというのは面白い構図だと思った。少し前に現実世界ではマスク=顔パンツなんてのも流行ったような気がするが、まさに下着を好きな人の前で脱ぐ行為と同じ緊張感や雰囲気は出せていると思った。
・全体的な出来はやや不満
作品全体を通じて、二人の台詞回しや展開に唐突な部分や強引な部分があったように思えるのは残念な点であった。特に残業中のひかりに響が差し入れを持ってくるシーンはそれが顕著で、突然来て無理やりプリンを食べさせる響に「意外と天然?」という感想を持つひかりはともかく、響については急に接近したり無理やり食べさせたりと、もはや奇行のレベルである。二人きりのオフィスであれば響でもある程度声は通るのではないかとか、無理やり食べさせるのを後から「響ちゃんなりの優しさ」で片付けるのもおかしいのではないかとか、どうにも腑に落ちないシーンの連続であった。なんならそこでマスク越しに唇を探してキスをするひかりの行動も、これを背徳とか欲求不満からくるキャラクターの行為というのは流石に不自然な印象。
また、飲み会のシーンでも、先輩から話を振られてからの場面転換や、響の声が通りにくい描写がやや分かりにくく、そのままラストシーンまでなあなあで進行してしまったな、と思ってしまう。なんというか、全体としてのバランスが悪い作品だった、というのが個人的な感想である。
・終わりに
テーマは良かっただけに、もう少し台詞回しや展開が分かりやすければ、という感じだろうか。説明不足故か、ひかりは必要以上に暗い印象が残り、響はキャラクターそのものの動きが作為的過ぎる。その分二人の百合に移入できないというか、素直に見ることが出来なかった。まぁ個人の感想なので、全然読みきれていない部分や考えが抜けている部分もある筈なので、話半分で受け取ってもらえれば幸いである。
というわけで今回も次号発売ギリギリの投稿である。まぁ自分の備忘録みたいなものだからいいとして、なんとか月一で更新はしていきたいものである。このくらいの文字数で無理せず頑張ります。
誤字脱字については許してください。
それでは、駄文失礼しました。