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百合姫読切感想・考察集17『バス・ストップで呼びかけて』

 ※ヘッダー画像は、みんなのフォトギャラリーより「稲垣純也」様の作品を使用させて頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。


 田舎に住んでいると、案外公共交通機関というものを使わない気がする。

 大人になって、マイカーを持つようになると、電車やバスといったものを少なくとも普段使いすることは皆無に等しくなった。電車はともかく、バスはここ数年単位で乗っていない。学生時代もバス通学ではなく自転車通学だったし、乗る機会自体が無かったのだ。

 ...上手い導入に結びつきそうもないので打ち切って、今回はコミック百合姫10月号に掲載された読切作品、kurimo.先生の『バス・ストップで呼びかけて』の感想を書いていこうと思う。

あらすじ:アイドルオタクの萩は同じクラスの夏織に憧れを抱き、密かに「推し」ていた。ある日、ひょんなことから香りと二人で学校をサボることになり...

https://www.amazon.co.jp/コミック百合姫-2022年10月号-雑誌-一色-ebook/dp/B0B9M88FQM/ref=sr_1_2?crid=1R7WZRGP2D2BS&keywords=百合姫&qid=1663410441&sprefix=百合%2Caps%2C354&sr=8-2


・淡い画風と展開が見事にマッチ

 まず目を引くのは、細やかな線と網掛けで覆われたような髪の描き方の作画。全体的に淡くおぼろげな雰囲気を纏っており、それが「憧れの人と二人で学校をサボって、当てもなく見知らぬ土地へ行く」というストーリーに見事にマッチしている。そういったシチュエーションは誰しも一度は思い描くものであり、読み手一人ひとりが自身の青春時代と重ね合わせたりして、作品への没入を助けているように感じた。

 展開を彩る二人の台詞回しも秀逸。大人びた夏織の「もし海に行けるなら海に行きたかったってことにしたかった」「わたしはここにいる意味があるんだな」のような文学的な表現と、アイドルオタクの萩の「ていうか音読上手い」「認知!?」のようなオタクらしい表現を組み合わせることで、作品展開に強弱を与えている。淡い画風から感じられる落ち着いた印象は大人びた夏織に非常に合うし、そこに「アイドルオタク」の萩というキャラクターがしっかり動くことで、必要以上に雰囲気を落ち着かせない、より味わい深い作品に仕上がっているように感じた。

・現実的で非現実的なキャラクターのバランス

 さて、本作はアイドルオタクの萩と、彼女が憧れる同級生の夏織の二人の百合を描いた作品であるが、二人のキャラクターデザインがとにかく秀逸。萩は丸眼鏡にゴムで纏めたお下げ、他に特徴らしい特徴が無く、あえて言えば主人公よりかはその友人ポジションのような印象すら覚える。対して夏織は確かに綺麗なのだが、どちらかといえば素朴な面が強く、口元のほくろがいいアクセントになっているものの、やはりそこまでの「美人」には描かれていないように思う。二人のデザインは現実的な範疇に収められており、それ故に受け入れやすい。

 性格としても、アイドルオタクの萩はいい意味で「ステレオタイプ」なオタクっぷり。だからこそ雨の中で叫ぶという本作のクライマックスとも言えるシーンも、「推し」への気持ちが高まった結果の感情の発露として、萩というキャラクターだからこそ自然なシーンに描けている。道中の会話でも、聞かれても無いことまでどんどん話すあたりなどしっかりオタク感を出せている。

 夏織は大人びていて、逆に言えばそれまでというか、萩が「アイドルでもなんでもない」、本人も「アイドルってもっと...キラキラした人たちでしょ」と言うように、そこまでの魅力は無いかもしれないし、実際前述の通り客観的に見ても素朴な要素の方が強いと思う。しかし、萩から見た夏織は「憧れの人」であり、それを読み手も感じる必要がある。そういった意味で、夏織の描かれ方はいい意味で「掴みどころが無い」と思う。どこか垢抜けない腰に巻いた服、完全に明言はされない複雑であろう家庭環境、達観したような眼差しという「淡いリアリティ」を持った夏織というキャラクターをドラスティックな構図で描くことで、夏織に非現実的な要素を与えている。そのリアリティとアンリアリティーのバランスを上手く保つことで、読み手がキャラクターにキャラクター通りのイメージを持ちつつも、同時に「憧れ」も抱かせるような構造になっているのではないだろうか。

・萩の純粋な気持ちが生んだ百合

 作中でも萩が「なんであんな意味のないことしたんだろ」と話すように、二人の間に起こった出来事は「学校をサボって知らない土地に行って帰ってきた」という一言で説明しようと思えば出来る。しかし、高校生の二人にとって、学校をサボって当てもなく知らない土地に行く、というのはまさに「非現実的」なイベントに他ならない。その特別な空気の中で二人きりという環境が、お互い普段は言えないような想いを口に出すきっかけになったのはその通りだろう。

 萩は夏織から元気を貰ってきたといっているが、きっと、夏織のことを「推し」ていたのはそれだけが理由では無いと思う。夏織のことを初めて見たときの一瞬で、少し伏し目がちで憂いを帯びたような瞳を見て、可愛いという感情の他に、声をかけなくてはと思ったのではないか。そしてあのバス停で不安そうに俯く夏織を見て、無意識のうちに声をかけた、という感じだと思った。アイドルオタク故にそういった用語を用いて、アイドルに準えて解釈していたが、なんてことない、ただ萩が夏織と仲良くなりたかった、というだけの話である。それはクラスメイトに抱く自然な反応であり、アイドルというヴェールが雨の中で取り払われたことで、最後には「等身大」の関係になれたのだと思う。そういった意味では本当に純粋な百合なんだなぁ....。

・終わりに

 独特の画風がストーリーに本当にマッチしていて、台詞回しやキャラクターとどこをとっても高水準な作品でした。個人的には夏織の描かれ方がとても好きで、もはや同じ世界の住人では無いような、浮世離れした感すらありました。
 逆に疑問に思ったのは夏織が雨の中笑うところ。そのシーン自体は小さく八重歯を見せて、ほくろを隠して笑うという素晴らしいシーンで、序盤の萩が言っていたセリフの伏線を回収しつつ、口元のほくろという外面ではなく八重歯という内面を見せていくという様々な要素を爽やかな絵で描いた神シーンなのだが、そこに至るまでにも同じような笑顔の絵があるため、コマ割りも相まってかインパクト自体は薄めになっていると感じた。

 結局今回も次号発売日を過ぎてようやくの投稿。もう少し余裕を持って書きたいものです。案の定校正はしてないので誤字脱字に内容の荒れは勘弁してください。

 それでは、駄文失礼しました。

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