長男が選んでくれたチューハイにまずいと言ってしまった話

他人(ひと)の気持ちを考えなさい


って簡単に言うけど、めちゃくちゃ難しいよ


少年漫画ワンピースにドクターヒルルクという医者が出てくる。

彼は余命1週間を宣告された後、チョッパーが万能薬だと勘違いして持ち帰ったアミウダケのスープを、実は猛毒だと知りながら笑顔で飲み干し、盛大に礼を言った。

そしてチョッパーにもらったアミウダケの毒では死なないと決心し、いい人生だったと叫びながら敵地にて自ら爆死する。


なんという相手の気持ちを大切にするやつなんだ。


完敗だ。


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(本編)


うちではよくあるシチュエーション。買い物で長男(幹史みきと6歳)や次男(桧志かいし4歳)が僕のお酒を選んでくれる。

大抵はいつものビールをもって買い物カゴに入れてくれるんだけど、その日選んでくれたのはグレープ味のチューハイだった。


僕は夕方の筋トレ明けでとっても気分がよくて、夕飯作りのお共にするために軽い気持ちでそのチューハイに手を伸ばした。


ぷしゅっ


乾いた喉に一気に炭酸を流し込む。


まずっ・・・


果汁0%でやーーーーっすい甘味料のフレーバーに醸造アルコールが合わさってもう救いようのないガタガタな味。


いやほんとまずすぎる


そしてまずいのにアルコール度数10%近くあるもんだから、不覚にも酔っ払ってしまった。空腹にまずいアルコールを入れるとろくなことはない。

夕飯になりワイフが僕の飲んでいるお酒をみて幹史に言う。


それ幹史が選んでくれたお酒やんなぁ


嬉しそうに幹史は言う。


うん どう? ぱぱ おいしい?


そして言ってしまう。


いや、こーれーは おいしくないな


・・・


凍りつく食卓。

僕はすでに酔いがまわっていて、その場の大切な空気を感知できていなかった。まるで圏外のスマホだ。そのままこのチューハイがどんな味でどんなふうにマズイのか饒舌にプレゼンしていた。


これは要点をおさえてわかりやすく語れてるわ~


勘違いしながら自分にさらに酔っていく。(もう○ね。おれ。)ふと幹史の方を見た。どうやら圏外でもカメラは使えるらしい。

6歳男子のその目には表面張力をはるかに超える量の涙がたまっていた。そして水しぶきを上げながらザバンこぼれ落ちる。


なんでせっかく幹史が選んでくれたのにそんなこと言うん!


というワイフ懸命のフォローむなしく、


まずいものはまずいっ 悪いのはこのチューハイやん 
幹史! 次はいつものビールを選んでくれな


・・・


ワイフの悔し涙もかすかにとらえていたが、何しろ僕は圏外のポンコツスマホと化していたので、どうしたらいいかググれもせず次の話題を待つしかなかった。


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パパさ、さいきんいつもさ、
みきととかいしといっぱいあそんでくれてるからさ、
きょうはいつもとちがうものかっていってあげようよ


少し落ち着いた後、実は幹史がこんなことを言いながら選んでくれたということを聞いて血の気が引いた。一瞬で僕の脳みその血管たちは僕のために働くことをやめていた。

失敗した

人を想う繊細な子供の気持ちを台無しにしてしまった


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あのさ、ちょっとパパ幹史にあやまりたいことあんねん


翌日、公園で2人っきりになったとき切り出した。


ん? なに?


ちょっとリフティングやめてそこ座ってや


えー  なになに


あのね、このまえさ、せっかく幹史がパパに選んでくれたお酒さ、パパおいしくないって言ってしまったやん?


うん うん


あれ、パパ幹史に申し訳ないことしたなって思ってるんよ
ごめんね せっかくパパのこと考えて選んでくれたんよね


ん ・・・


だからまたパパにお酒さ 選んでくれると嬉しいな


・・・


幹史は指で押した液晶画面のようにまゆ毛をぐにゃりぐにゃり素早く動かしながら、一度だけうなずいた。


そしてなにもなかったかのようにまたリフティングをはじめた。


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それからこのことについて、幹史に重ねて謝ったりはしていない。話題にも出していない。 あまり言いすぎてもさらに傷をえぐってしまいそうで。

でももう彼の心には深く刻み込まれてしまったと思う。


ふとドクターヒルルクの行動を思い出す。


僕は完敗だ


本当に悪いことをしたよパパ


謝っても謝りきれんかった


だから残りのゴメンをここに書かせてくれ


ごめん 幹史


明日もまたパパと遊んで欲しいな

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