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『愛なき世界』には愛が溢れていた



久々に面白さのあまりすごい勢いで読んだ本があるので、バンタン事ではないが、備忘録として記録しておこうと思う。


三浦しをん「愛なき世界」。文庫で上・下巻である。


三浦しをんさんの小説は、『船を編む』とか、『光』とか、『あの家に暮らす四人の女』とか、その他何作か読んでおり、どれも面白くて好きな作家さんの一人だ。

フラッと立ち寄った本屋の文庫コーナーで、この本の帯に「研究は推し活だ」と書いてあるのが目に止まった。


やはりオタクとしては「推し活」という文字に敏感なので、手に取らずにいられなかったのだが、その場では買わず(買わんのかい)、AmazonのKindleで購入した。(本が増えては手放す、というのが面倒なので。)


登場人物達のちょっとした行動とか、考えることがいちいち面白いので、何度も不気味な声をあげて笑いながら読んだ。


最近「阿佐ヶ谷姉妹ののほほん二人暮らし」を読んだ時も、同じようにぐふぐふ笑いながら読んだのだが、さすが芸人さん、やっぱり普段からちょっと面白おかしいことに焦点をあてて生活してるんだなあと思った。


この話は、いわゆる登場人物の一人称で物語が進むのだが、阿佐ヶ谷姉妹くらいほっこりしたちょっとおかしな人物だらけで、悪人が出てこず、いい意味で変人ばかりが出てくるところが私にはたまらなかった。

私はいわゆる変わった人に弱い。
研究者でちょっと浮世離れした感じの人、なんかはめちゃくちゃ私の好みのタイプだ。

それは恋愛対象とかではなく、男女問わず、なりふりかまわず何かに夢中になっている人がそれを熱く語るさまなんかを見ると嬉しくなってしまう。
オタクが熱く語る様を見るのが好きなオタクといえよう。
ちなみに、それを見て面白がってはいるが、決して馬鹿にしているわけではない。単に私のツボなのだ。

研究者の方イコール変人と言っているわけではないが、気を悪くされる方がいたらごめんなさい。
悪い意味ではなく、俗っぽくない、という意味です。



本題に戻すと、この話は、T大がモデルの赤門近くの小さな老舗洋食店で働く藤丸くんと、彼が恋する本村さんを中心に話が進んで行くのだが、登場人物がとにかくみんな面白い。
主人公の藤丸くんがまずすごくイイヤツで、1番普通の人っぽくはあるが、彼の考えている事や周りの人とのやりとりにユーモアがちりばめられていて普通に面白い。


そして、藤丸くんが恋する本村さんは、大学院の博士課程で植物の研究をしている研究者の卵なのだが、普通の感覚の持ち主である藤丸くんから見ると、大人しくて可愛らしいけど、植物を愛しすぎていてピントがちょっとずれている。

のちに藤丸くん目線の一人称から本村さんの一人称に変わって話が進むところも、変人である本村さんから見た世界がこういう感じなんだとわかって面白い。

その他の登場人物も変人が多いので、普通の会話がなんだかおかしい。こんなに読んでいてずっと面白い事ってなかなかないよなあと思う。

藤丸くんからは「仕事帰りの殺し屋」、さらに本村さんからは「死神のような雰囲気」だと形容される研究室の松田教授は、実は生徒の間では人気のある教授だったり、サボテンのトゲにしか興味のない人見知りの加藤くんや、その他の研究室のメンバーや、隣の研究室のイモのスペシャリストの教授などなど、とにかく変人だけど魅力的な人がたくさん出てくる。
大学の研究室とは魅力的な人物の宝庫なのか。

研究室の人々以外にも、藤丸くんが大将と呼ぶ洋食店の店主の円谷さんだったり、大将の恋人花屋のはなちゃんだったり、めちゃくちゃいい味出てる。

人見知りの加藤くんがサボテンについて熱く語ってしまえたり、その他の研究室の人たちの心をあっさり開かせる藤丸くんは実はすごい人なんじゃないかと思った。

この物語は言うならば恋愛小説?なのだろうが、何かのオタクなら、何かに夢中になったことのある人なら、登場人物に共感できて、恋愛の行く末はともかく、かつ読後感もとても清々しいのではないかと思う。


ちなみに途中で難しい実験の話が出てくるが、私は藤丸くんよりの頭脳なので字面は追っていたもののほぼ頭に入って来ず。巻末の「藤丸くんに伝われ 植物学入門」をじっくり読むこととする。

とにかく上下巻にも関わらず、2日で読み終わるくらい夢中になったのは、私がこの物語の登場人物達をすごく好きになったからだと思う。


「愛なき世界」とはつまりは植物の世界の事だ。
すごいタイトルでドキっとするが、その周りには色んな愛が溢れていた。



しばらく三浦しをんワールドにハマりそうだ。


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