お雑煮に甘~いおもちを入れてみた結果
お正月の朝は特別だった。
目を覚ましてブラインドを開ける。
いつもと同じ、真っ白な雪景色。ぼたん雪が重たそうに落ちてくるのに、なんだか爽やかで特別に思えた。
「年賀状しわけしてー」
テレビでは駅伝が流れている。わたしはさらに機嫌が上向きになって、ずっしり重たい年賀状を受け取った。父、父、父、母、父、父、父、弟、わたし、わたし、父……。ほとんどが父宛てでつまらない。
「お雑煮できたよ」
お椀の蓋を取ると、鰹出汁の香りがふわりと広がる。
すっきり透き通ったすまし汁の中には、鶏肉とごぼう、しめじ、それから紅白の蒲鉾。人参と大根は花型に抜いてある。三つ葉で色味を足して。
おもちは角もち。ねっとりとやわらかい。
お雑煮をつくるのが”わたしの仕事”になって、何年が経っただろう。
今年の元日は”夫のお雑煮”をつくった。丸もちと白みそのお雑煮。はじめて食べたときは驚いた。見知ったお雑煮と同じなのは、人参と大根が入るところだけ。
義母にはじめて作り方を聞いたとき「それとな、セレベスを入れるんよ」と言われ、わたしは困惑した。
セレベスは里芋みたいな野菜。インドネシアのセレベス島が原産だからそう呼ばれているようだ。
3種類の野菜とおもちを煮て、白みそを入れ、最後にパセリをふる。
今年の元日、わたしは、しまった、と思った。
丸もちを買い忘れていた。パセリもない。
この機会に、義実家の完コピから”わが家の味”作りに手を染めていくのもいいかもしれないと思い直した。
セレベスは、香川のスーパーでは山積みになって置かれている。
ところが、皮をむいたわたしは、悶絶した。手が異常にかゆい。ひりひりとして、細かい棘が刺さっているような感じもある。里芋と同じく、ぬめりの成分である”シュウ酸”の結晶が、針のように皮膚にささってしまうのだという。
これまでの自炊で1、2を争うレベルの辛さだった。重曹水がいいらしい。急いでつくり手を浸したけれど効果はみられなかった。
別なサイトでは酢がいいという。原液の酢を振りかけたら、多少はましになり、やがてかゆみが引いていった。
家にあった角もちをこんがりと焼いた。パセリの代わりに、柚子の皮を散らしてみた。
おいしい。
焼いたおもちの香ばしさと、こっくり甘めの白味噌、そして柚子の香りがとても合う。セレベスのねっとりやわらかい感じも食感が変わって楽しかった。
翌日、わたしはもう一度お雑煮をつくることにした。
義実家の味でも、実家の味でもない。未知のお雑煮。緊張していた。
ベースは義実家と同じ。白味噌に丸もちを入れる。
でも、入れるもちが違う。
「あんもち」だ。
香川では、つぶあんが入った丸もちをお雑煮に入れる習慣があるそうだ。これを「あんもち雑煮」という。
年末年始になるとスーパーの一角に、透明パックが山積みになる。丸くて白く、打ち粉がついた「あんもち」が入ったものだ。
香川出身のママに聞いたところ、あんもち雑煮は「好き」と「きらい」が半々くらいだったので、緊張していた。
しかもわたしは、つぶあんが苦手だ。
鰹出汁で大根と人参を煮る。きょうは敵は放置。まだいっぱい残っている。
白味噌は香川産のものを用意してた。
「香川のあんもち雑煮が気になって作ったんやけど、おいしくなかったんよ。たぶん、味噌が原因だと思う。甘い味噌が合いそう」
と言っていた人がいたからだ。
だから香川産の甘めの白味噌を用意していた。つくりかたを調べたら「青のり」を入れるのがいいとある。柚子とともに入れて豪華にしてみた。
実際に食べてみる。
……。
……?
新感覚のおいしさだ。
デザートを食べているのかごはんを食べているのかわからなくなる。それなのに後を引く。あんもちの甘さと、とろりとした白味噌の甘さが意外とマッチするのだった。
「花びらもち」と「ごぼう」の組み合わせが近いだろうか。
はじめての感覚がたのしくて、無言で食べ進めた。
じつはこの日、年明けうどんも用意していた。
スーパーで売られていた「年明けうどん」用の乾麺。
白とピンクのうどんが入っていて、おめでたい。茹で時間が15分と長いので時間配分には注意が必要。
鎌田醤油さんの「だし醤油」を水で1:1に割って、ぶっかけうどんにした。「さぬきうどん」らしいコシが強いうどんを楽しんだ。
慣れ親しんだ味を守っていくのが好き。「今年もこの季節か」と思いたい。でも、少しずつ新しいものを取り入れながら”わが家の伝統”をつくっていくのは格別にたのしい。
来年も再来年も、きっと1月2日はあんもち雑煮と年明けうどんを食べているだろう。
(2,000字)
▼この記事は「歳時記ノート(デジタル版)」として書いてみました。アナログ版としては、こんな感じの書き込めるシートを販売予定です。
▼わたしについてはこちらへ。お仕事募集してます。
▼この記事は、青森県民が香川に移住して感じたカルチャーショックを楽しく綴ったシリーズです。東北民と四国民なら伝わるものがあるかも?