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根こそぎ増やしてもらいたい。

妹の話である。
先日、日本橋の七福神参りに行ってきた。

七福神参りは全国各地にあるようだけど、日本橋のは「笠間稲荷神社」「末広神社」「松野神社」「水天宮」「茶の木神社」「小綱神社」「福森神社」をぐるりとお参りする、歩いて1時間半程度のコースだ。


その2つ目に回った末広神社でのこと。
境内に御幣の付いた小さな石があって、そこにはこんな貼り紙がされていた。

徳石
「石の上に財(銭)を置いてください。
両手を合わせて、『いや、すえひろがり』と心の中で唱えます。
財を持ち帰ります。

その財を使うと徳運が上がります。
その財を持つと徳運が貯まります。」

見てみると誰かが持ち帰り忘れたのか、10円玉が落ちている。連想するに、石の上に置くのは小銭だと私は心得た。

すかさず100円玉を置き、両手を合わせ、
『いや、すえひろがり』
と心の中で唱えてから、その100円玉を財布に戻す。

これが慣例なのだと疑わない、貼り紙のままの行為である。


しかし、私の後ろに控えていた妹の様子を見てみるとどうだろう。

こいつ、財布をまるごと置いてやがる。


確かに貼り紙には「財(銭)」とある。
財布はまさに財そのものである。

なるほどこれもまた貼り紙通りの行いなのだと思ったし、財布という存在ほど銭を出し入れして使う場所もない。

なんともはや、なかなかに強欲な肖りあやか方をする。

別の日である。
鎌倉の銭洗弁天に、私と妹と母の3人で行ったことがあった。

言わずもがなそこには籠にお札や小銭を入れ、湧き水で洗うと金運が上がるという有名な謂れがある。

ここではさすがに財布ごと洗う訳にもいかなかろう。

私は慣例通りお札を取り出して籠に入れ、湧き水で2,3回ゆすいでからタオルでその水分を拭き取った。

ふと、私の後ろに控えていた妹の様子を盗み見る。


こいつ、キャッシュカードを洗ってやがる。



いや、確かにここは「そういう場所」だ。
来る人はみな「増やしたい対象」を洗うのだ。

キャッシュカードを洗うということはつまり、元手そのものを増やしにかかっているという行為である。

思わず私は妹のその捉え方に思わず感嘆せずにいられなかったし、慣例というものはこうやって変化していくのだろうなと全く関係のないことを考えた。

妹よ、お前はきっと天才に違いない。


その後私が自分の財布からキャッシュカードを取り出し、彼女と並んで洗い始めたのは言うまでもない。


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