超簡略版「サイコドラマAR」を試してみた
「XR × カウンセリング」の研究は数多くあれど、今の私でも試せることないかな、と思ってやってみたことの話。
※この記事はSTYLY主催「XRアドベントカレンダー」3日目に掲載した記事です。
サイコドラマとは
精神分析家であるヤコブ・モレノが創始した、集団を分析するための技法「ソシオメトリー」のワークのひとつ。
ごちゃごちゃ書いたけど、簡単に言うとサイコドラマはその中でも特定の個人を対象として「相手の立場に立って物事を考えるロールプレイング」を行うワークだ。
「相手の立場に立って考えるなんて普通じゃん」
と思われる方もいるかもしれないが、サイコドラマは「その人になりきってその人の言葉を発する」という体験自体が重要で、自分とは別の役割を持つ人間として振舞ってみることで、その人が「実は」抱えていたものや状況が、よりリアルに体感できるようになる、というもの。
(ちなみに私が過去に書いたこちらのワークもソシオメトリーがベースになっている)
ケース
今回はこんな事例を用意した。
この状態の時、Aさんの視点からは「この上司の態度を改善すれば万事解決」となりがちだが、果たして本当にそうなのだろうか。
こういう時にサイコドラマを取り入れることで、「本質の課題はどこにあるのか」という点をしっかり吟味することができる。
進め方
サイコドラマには鏡映法(ミラー)や二重自我法(ダブル・エゴ)などの手法もあるが、今回は代表的な「役割交代法」を試みる。
ざっくり言うと、クライエント自身を代理する補助自我(=3Dモデル)をAR空間に登場させ、患者は「3Dモデルが演じる自分自身」に対面することによって、本質課題と自分の役割を発見していく、という流れ。
事前情報整理
最初にクライエントについて
・例の上司に対してどのような感情を持っているか
・それはなぜなのか
を明確にする。
以下のようにヒアリングを進めていく。
続いて、その感情の原体験を探っていく。
この時点で、クライエントAは上司に対しての感情として「かわいそうだ」と思っており、それは「本当はいいところもあるのに伝わっていない、誤解されている状態が嫌」という背景があることが分かった。
※ここのヒアリング手法については他にも体系化されたアプローチが沢山ある。
クライエントのアバターを作る
今回あえて全身を捉えられるアバターが欲しかったため、簡単に「VRoid」でクライエントのアバターを作り、それを「Avatavi」というアプリを使って小人化してみた。
ちなみに私は超初心者ゆえこの簡単アバターアプリを使ったけど、欲を言えばもっとリアルな3Dモデル作りたいしそっちの方がいい。
このアバターを仮に「ミニクライエント」と名付ける。
ミニクライエントをカウンセラー側が操作する。
(操作下手くそすぎるマンな私)
サイコドラマ開始
カウンセラーがクライエント役(=ミニクライエント)
クライエント自身には上司の役を演じてもらう。
先ほどのヒアリング内容をもとに、カウンセラー(=ミニクライエント)から次のような言葉を伝える。
「ねえ!!◯◯(上司)さん!!あなた、かわいそうです!!
本当はもっと良いところたくさんあるのに!!勿体無いですよ!!!誤解されているのを見てると私、とても嫌な気持ちになるんです!!!」
ちなみにこの時のカウンセラー側のポイントとしては「これでもか」ってくらい力を込めてこのセリフを言うことである。
この時初めて、上司役のクライエントは「自分の放った言葉で自分自身が否定される」という状態になる。
すると、クライエントからは次のような言葉が出てきた。
「しょうがないじゃないか!!!そんなこと言ったって!!!
僕も一生懸命やってるんだよ!!!!」
この言葉(否定)が出てきたときに、改めて「なんでそう思うんですか?」と聞く。
上司になりきったクライエントは続ける。
「だって、社長から今期の売上なんとしてでも上げろってプレッシャーかけられてるし、本当はこのチームに注力したいのに別のことでリソース割かれてるしやりたいこともやってあげたいこともたくさんあるのに時間なくて、それなのにみんな目標未達成でも呑気にしてるし・・・!」
ここまで言葉として出たとき、今回のクライエントはハッとした表情をする。
これまで自分が感じていなかった上司の感情を手にとるように感じることができたからだ。
この時、上司が置かれている「状況」ではなく「感情」として表出することが重要である。
このクライエントは、自分が考えていたような「上司の態度やメンバーへの伝え方を変える」だけでは何一つ解決しないということに気づいた。
本質的な課題は「態度や伝え方」などではなく、上司自身が感じているプレッシャーを緩和する環境のなさと、上司が描く「ありたい姿」に今の組織がなっていないことだった。
ここまで読んでお気づきかもしれないが、このクライエントとは私のことであり、この上司は前職でお世話になった人で、当時のことを思い出しながらワークに取り組んだ。(ちょっと恥ずかしい)
ARを使うことの意義
今回実際にやってみて、自分では自分の感情だけでなく上司の役になりきって初めて出てきた上司の感情が顕在化したことびっくりした。
また、サイコドラマは多分ARが最適かもしれないとも思った。これについては以下に補足する。
なぜオンラインではないのか
もちろんGoogleMeetやZoomでカウンセラーと会話しながら、でもできる。もっというとテキストで自分の感情と相手の感情を書き出すだけでも一定の効果があるワークである。
しかしあえてARで実施する意図としては、「実在感が格段に異なる」という点に尽きる。
相手になりきって相手の言葉を発するには「メタ認知」の力がある程度必要となり、一般的にクライエント自身が自分の固定概念を自分から明らかにすることは難しい。「自分の姿」を明確に認知することがこのワークの鍵となる。
また、アバターをGoogleMeetやZoom上で利用する手段もあるが、こちらでも記載したように、これには「目が合わない」というカウンセリングにとって致命的な点があるし、メタ認知という視点では「自分の姿を全身で」捉えられる方がいいと思う。(=より俯瞰して見ることができる)
なぜVRではないのか
もちろんVR空間でも同様のことが可能であるし、もっというとVRの方が空間そのものを「当時の状況」のまま切り取って再現できるので効果はありそうである。(今回の例でいくとその上司がメンバーに対して高圧的な発言をしているシーンなど)
しかしこれについては、カウンセリングそのものがどこまで行っても「当時の自分の感情」ではなく「今の自分の感情(=過去の出来事を今のその人がどう捉えるのか)」に対して働きかけるものだと私は考えているため、「当時の感情を思い出すためにVR空間を利用する」ことは有意義であっても、今の自分の感情の本質を探るには不十分だと考える。
よって、今の自分の目の前に当時の自分を出現させることができるのであれば、それが一番効果的だと考える。(これは別途検証が必要。残課題)
まとめ
・ARでサイコドラマやってみた
・相手の立場に立つ、がリアルにできた
・サイコドラマはARが最適だと思った
・VRとARの比較は今度やってみたい
リアルアバターがもっと簡単に誰でも作れるようになって、会話もしやすくなったらいいなあ、と思う。(すでにあれば誰か教えてください)
もしこれがもっと精度上がったらきっと、病院/クリニックでの利用だけじゃなくて一般企業のマネジメント研修とか、もっというと俳優養成所の演劇指導とかにも使えそうだな、と思った。
あとは個人的にに「サイコドラマ」って呼び方はなんだか「やべえ犯人が出てくるテレビドラマ」の印象があるから、別のにしたい。
以上。
カウンセリングについてはまだまだ勉強中の身ゆえ、ぜひ他のアプローチや事例があれば教えてください。
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