壊して、継いで、満たされて。
初めて金継ぎ体験に行った。思った以上に簡単で今後は自宅でもできそうだったので、再現のための工程と、ついでにそこでの大妄想を記録しておく。
そもそも金継ぎとは
「割れや欠け、ヒビなどの陶磁器の破損部分を漆によって接着し、金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法。金繕い(きんつくろい)ともいういう。」by Wikipedia
存在自体は知っていたけど、調べると私が思うよりもずっと歴史が古かった。縄文土器にも破損部を漆で修復した痕跡があったらしいし、室町時代以降、漆を使う工芸技術と「修理した器もありのまま受け入れる」という茶道精神の普及によって定着したそうな。
ほーん。なるほどね。
集まれ集まれ
私の母にはよく趣味を共にする仲良し3人組があるのだけど(羨ましい)、今回はそのグループに私も混ぜてもらって参加した。
持って行ったのは画像のお皿を含めて5種ほど。
「使うには気が進まないけど捨てられない」ものだったり、せっかく大事にしていたのに割れてしまった思い出の品だったり。そういったものが私の家には沢山あった。(なにせ私は「クラッシャー森逸崎」の異名を持つ女)
ちなみに急須は私の祖母が大事に使っていたもので、蓋はもともと接着剤か何かでくっつけていたらしいのだけど、その後私が掃除中に落として取手まで割ってしまった。(本当ごめんなさい)
そんなこんなで、サクッと金継ぎは始まった。
用意するもの
今回は本漆ではなく合成漆。材料は全てホームセンターで購入可能。
金継ぎの工程
1. 破損部を綺麗に掃除する
ホコリや汚れは落としておく。濡れている場合はしっかりと乾かしてから2の工程以降に進む。
※ここをサボると接着剤やパテが付きにくくなってしまうのでしっかりと
2-1. 接着【分離破損の場合】
・瞬間接着剤を割れた箇所に塗り、くっつける
※固定が必要な場合にはマスキングテープを利用すると良し
2-2. 接着【縁が欠けている場合】
①エポキシパテをカッターで5ミリほど切る
②周りのビニールをはがし、エポキシパテの外側のグレーと中心部のグレーが混ざるように指でよく錬る
※2色が混ざるとすぐに固まり始めるのでスピーディに
.
③色が混ざったらすかさず欠けた部分に当てていく
※空気が入らないよう、しっかりと押し込む
.
④乾いてから、カッターで余分なエポキシパテを削る
※この時完全に乾ききっていないとパテがゴロッと取れてしまうので注意
3. ヤスリがけ
①250番のヤスリをかける。
目安は触った時にまっ平らに(陶器とパテの境目がわからなく)なるくらい。
ヤスリがけがしにくい場合は、割り箸にヤスリを巻いて擦る。
分離破損の場合も、接着剤の凸凹が気にならなくなるくらいにヤスリをかける。
この作業は結構肩と背中にきた。根気がいる。
そして根気がいる作業を継続して行うとき、私は妄想が暴走する傾向がある。
無我夢中で削りまくっていたら、今日も今日とて唐突に「峯岸陶次郎(47)」が脳内に現れた。
スリスリスリスリ…
「そうか、とうじろうの『とう』は陶器の『陶』なのね」
「はい、父親に名付けられました。
それである日、父親の旧友から国連サミットで利用する陶器の作成を相談されることになるんですよね。
でも自分には才能なんてない、みんなが求める『新しい陶芸』なんてできない、と思って断ろうとしているんです陶次郎は。
あー、ちくしょう、頑張れ!陶次郎!!」
スリスリスリスリ
「おー、いけいけ陶次郎」
スリスリスリスリ
やすりをかけながら、こんなくだらない妄想を変人扱いもせず笑ってくれるあたり、さすが我が母の友人だと思った。(私は母が好きなこの2人が大好きである)
まあ、そんな話は置いておいて、次。
②800番のヤスリを水で濡らして研磨する。
目安はエポキシパテについていた細かな傷がなくなるくらい。
③最後に1200番のヤスリを水で濡らして、さらに研磨する。目安は触った時に「うわツルッツルやんけ」と感動するくらい。
4. 金粉塗り
①チューブ型うるしと金粉を少量、だいたい1:1程度ずつ入れ、混ぜる。(以降これを「金うるし」と記載する)
②金うるしをシンナーでのばしながら、固さを調整する。目安はだいたいアクリル絵の具くらい。
※シンナーは金うるしをのばす以外にも、誤って塗ってしまった金粉を拭き取るために利用できる。別の小皿に少量出しておくと良し。
.
③破損部に金うるしを塗っていく
この時のポイントは
・ひと筆で一気に塗ること
・広範囲の場合は、外側を縁取るようにして塗ってから内側を塗ること
こうすることで塗りムラを最小限に抑えることができる
5.乾かす
だいたい3時間くらい、お昼ご飯を食べながらおしゃべりしながら、乾かした。
(ちなみに今回の先生がとても面白くて、少年院の指導教官だったという経験談も政治経済についての知見の深さや幅広さにも脱帽しまくりだった。この方についてはいつか別の文章にしたい)
そしてついに、完成!!
ババーン!
いいんじゃない?なんだかとってもいいんじゃない?
金のおかげで、ちょっと高級感を感じる。欠けてるはずなのに、前よりもだいぶ上品だ。
よかろうよかろう、陶次郎も胸を張ってる気さえする。
ありがとう先生。ありがとう母ちゃん。ありがとう母ちゃんのお友達。
気づき
完成した時、参加した私たちは「なんだか嬉しいね」と口々に言い合った。
使えなかったものが、また使えるようになる。
文字にしてしまえばたったそれだけのことなのに、欠けた部分を補うこと以上の成果がある気がした。
骨董屋をやっているという母の友人が言った。
「お店に来るお客さんと話しているとね、大事にされてきた食器や家具を他の誰かが使ってくれることにも、お客さんや地域の人との関わりに対しても、とても『自分以外の誰かとつながっている』ということを痛感するの。
自分ひとりだけでここに存在しているのではなくて、他の色んな人とつながることで、自分は存在している。
そんな気がして、とても楽しいのよ」
ああ、この達成感や嬉しい気持ちは、そういうことかもしれない。
誰かが大事にしてきたものを、自分が大事にして、そしてさらに別の誰かに大事にしてもらう。
自分がその一部を担うことは、とても満たされる行為なのだと思う。
作業だけ見たら正直「金塗り」と呼ばれても不思議ではないそれを、あえて「金継ぎ」と表現していることにさえ、私は意味を感じずにはいられなかった。
「塗るの上手いねえ」とおだてられていい気分になりながら。
母の友人が作ってきてくれた美味しい煮物やサラダを食べながら。
色んな考え方や思想を聞きながら。
新しくて難しい単語をたくさん耳にしながら。
初めての金継ぎ体験は、私の一日をこの上なく充実なものにしてくれた。
さてと、私はこれから、何を継いでいこうかな。