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好きなものを好きな分だけ?

 ある春の日のこと
祖母は、お寿司が食べたいと母や伯母や叔父にしつこくしつこく伝えてきた。伯母は”おいなりさん”と”かんぴょう巻き”を買ってきたのだが、「ちがぁーーーーう」とキレて怒り気味に差し戻した。それらは、完全に飽きたらしい。

次に、叔父が”マグロの握りずし”を買ってきたが、「この間と食べたのとちがうのが食べたいの!!」とちゃっかり全部食べたくせに、顔から滲み出るくらい不服そうだった。

 ある日、久しぶりに時間ができたので、祖母に会いに行った。母から、”握りずし”と”巻物”がNGと言われ、途中でデパ地下に寄り、ウニやらイクラ、中トロがてんこ盛りにのった豪華な”海鮮丼”を買っていくことにした。実は、ウニとイクラは大好物である。もちろん、一人では食べ切れない大きさだ。一緒に食べようと言いつつ、残りをもらっちゃおう作戦で、私のちゃっかりした欲望も値段に上乗せしたのであった。

 食べ始めようと海鮮丼の箱の蓋を開け始めたとたん、鋭い視線を感じ、恐々と顔を上げてみた。取り憑かれた般若みたいな顔で睨みをきかせ、私の食べ物への欲望をも見透かしたのか、「おまえ、娘をどういう育て方したんだね!!」と突然、ドスの声をきかせ、母を説教を始めた。
「自分で働いていないお金で買ってないのに。どういう躾をしているんだ」全員、一瞬なにが起こったのか分からなかった。
「まだ、自分でお金を稼いできていないのに、先に食べるとはどういうことだ!!」

「・・・・・」

またまた、理解不能である。
伯母が、「もう、なに言ってんの。この子は自分でちゃんと働いたお金で買っているのよ!!」

「えっ」

なにが起こったか分からない顔をしたのだが、すぐまた般若のような顔に戻った。どうやら、その日は急に脳が退行したらしく、私が高校生になってしまったようだ。
(もう私、いっぱしの30過ぎのおばさんなのになぁ・・・)
食事制限もあり、食べれる分だけ大好物をお皿にのせて、本人に渡したら「少ない・・」
そして、突然「全部食べるなぁああーー」と怒鳴り、海鮮丼の折詰ごと全てを両手で囲っていた。もう突っ込むこともできず、みんなで顔を見合わせ、大爆笑してしまった。
 94歳の食べ物執着は、すごい。生きる活力そのものだ。
それを見て、当分元気なんだろうなとクスッと笑った。


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