【でんぱ組.inc】UHHA!YAAA!TOUR!!!2019【名古屋】
この日見たでんぱ組.incは飾り気なく“いのち”を叫ぶ人間であり、メンバーの変化を経て紡いできた電波ソングを歌うアイドルであり、迷いや秘めた自我を持つ少女であり、秋葉原を愛する一個人であった。
彼女たちのアイドルらしさの根本にいる“憧れ”や“情熱”といった感情が可視化されたライブは6人体制の決意をむき出しにしているようでもあった。
ジャングルを思わせる映像からスタートした1曲目は「いのちのよろこび」。原始的な世界観で歌われる日常の喜びが“世界の全てが 通じ合えたなら それがおっきなおっきな いのちのよろこび”とスケールの大きくも等身大の言葉で歌われる。“ウッハ!ヤー!”というかけ声とともに上下するサイリウムが1曲目とは思えないような一体感を生み出した。
旧6人時代から歌い継がれている「でんぱれーどJAPAN」、新メンバー加入後初の夏曲「プレシャスサマー!」とアッパーな曲がが続き、元来のでんぱ組.incの明るさとともに新たな6人のキャラクターの豊富さと安定感を提示する。未だでんぱ組.incのヲタク感が抜けきれない根本の特徴的な歌声がでんぱ組.incに新たな色を加え、これまでのでんぱ組.incに存在しなかった王道アイドルのキャラを持つ(それでいて強い負けず嫌いな一面を併せ持つ)鹿目がでんぱ組.incの振り幅を圧倒的なものにする。夢眠の卒業で欠けたものは6人の個性で十分すぎるほど補填されていた。はじめからこの6人だと言われたところでなんの違和感もない。
6脚の丸い椅子が用意され、MVを模したフォーメーションで披露されたのは「子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡」。でんぱ組.inc史上最速であろう早口パートが繰り広げられると会場は歓声に沸く。新メンバーにとっての原点とも言える「Dear☆Stageへようこそ♡」と併せてアイドルらしさを惜しげもなく見せる。
「FD3」で“現状維持=退化でしょう!”とこのライブを象徴するような歌詞を響かせると、「待ちぼうけ銀河ステーション」をステージの階段を使った立体フォーメーションで魅せる。「キラキラチューン」ではお決まりのメンバー間の喧嘩演出がなされ、最後には仲直りすると分かってはいても古川の渾身の演技にハラハラしたりする。
聴かせる時間にします、と語り雰囲気を変えたメンバーは「形而上学的、魔法」「ユメ射す明日へ」「明日地球がこなごなになっても」と落ち着いたナンバーを続けて披露する。「形而上学的、魔法」ではアイドルの装飾を取り払ったフラットな歌声が時に感情的に届けられる。激しいダンスが特徴のでんぱ組.incだがこの曲のダンスはまた違った意味で特徴的で、メンバーがそれぞれ異なる動きで身体全体を広げ感情を表現する。6人の静と動が1つのステージ上に具現化された景色に思わず息を呑んだ。
自我や葛藤、迷いといった感情がミドルテンポの曲に吐露するように乗るその時間はアイドルの中に潜む一人の少女の感情がむき出しになっていたように思えた。
ファンのリクエストに応えて「ダンスダンスダンス」を披露すると、夏の新曲「ボン・デ・フェスタ」を続ける。盆を取り上げた新曲で来る夏に向けて会場の温度を上昇させると、「バリ3共和国」「ギラメタスでんぱスターズ」「破!to the Future」「ちゅるりちゅるりら」「でんでんぱっしょん」と新旧を織り交ぜた楽曲ででんぱ節を見せつける。にしてもこの子たち、本当によく動く。
今日のテーマは“愛”です!とどこか照れくさそうに古川が話し、その流れで「強い気持ち、強い愛」を披露。それぞれの色のサイリウムを振るファンに向けて愛を伝えた。
本当に最後の曲です、と言って歌われたのは「秋の葉の原っぱで」。スポットライトに照らされたメンバーはセット上の階段にそれぞれ立ちながら原点である秋葉原に思いを寄せる。バラードに乗せる歌声は素直で、胸を打つまっすぐさを誇っていた。
“じゃあ また明日”とまで歌った後、メンバーはステージに横一列に並ぶ。6つのスポットライトが集まり線状になったところで、6人はイヤモニを外し、声を合わせてアカペラで“秋の葉の原っぱで 思い出の種を 風に乗せて 届けたいの”と歌い上げた。澄んだ6つの歌声は会場に染み渡り、観客の胸を震わせた。アンコールなしで締めくくられたシンプルさが6人のファンや秋葉原への愛情を強調しているようだった。
2時間の間に様々な表情を見せた彼女らは、どんな雰囲気の楽曲も自分たちのものにしてしまえる強さを持っていた。と同時に、その原点には秋葉原があって、それぞれ愛する文化があって、といった6人の始まりを見せつけられたような時間であった。
6人体制となったでんぱ組.incがこれからどんな新しいことを繰り広げてくれるのか、更に目が離せない。