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文鳥と暮らして一年のオタク、鳥を語る。

よくある話である。下手くそな合コンの代表格みたいな話題だ。フィッシュ・オア・ビーフ? みたいに、飛行機の中で出せるものが限定されているとか、そういう状況でもないくせに、なぜ二択に絞るのか。

そう、きみは犬派? 猫派? ってやつ。わたしも一年前までは「う〜ん、どっちも好きだけど猫派かな〜」とか無難な返しをしていたと思うが、この一年ですっかり嗜好が激変した。

今、「犬派か、猫派か」と訊かれたら、わたしはこう言うだろう。

鳥派です。
(ちなみに、肉か魚かと言われたら野菜と答える。あまのじゃく。)

***

そんな人生を変えてくれた存在は、今こうしてキーボードを叩く間も手の甲に乗っかって毛繕いをしたり、辺りを警戒したりしている。名前はおひい、性別はオス、種族は文鳥、色はシルバー。ついこの前一歳になったばかりの若い鳥だ。この子のおかげで、わたしは全ての鳥を愛するようになってしまった。

文鳥と暮らそうと思うまで、鳥といえば空を飛んでるもの、自由の象徴……くらいの印象しかなかったし、世間一般の鳥に対する印象はそんなものだと思う。試しに、「鳥」でGoogle画像検索してみてほしい。上位に出てくるのはおおよそ野鳥が空を飛んでる様子だとか、シマエナガのかわいい写真。この文章を読む人も、そのくらいのイメージであると仮定している。しかしあなたと同じくらいの鳥ビギナーが、ここまで鳥を溺愛するようになってしまったのだ。このことからも、鳥がいかに人を狂わせる生き物かということがわかるだろう。鳥とは魔物である。かわいい。愛だ。最高。

ここでは、そんな鳥バカ一年生のわたしが語る鳥の魅力——主におひいの惚気——を数点に分けて書いていくこととする。
この文章を通して、少しでも鳥——そしておひちゃん——の魅力が伝わってくれると嬉しい。


かわいい

タイトルがバカであるが、歴然とした事実であるので仕方がない。
まずはうちのおひいをご覧いただきたい。

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はいかわいい。このモチモチ・フワフワ・ツルツルボディ。文鳥と実際に出会うまで、どうして羽根でできた生き物がつるっとしたまるい見た目になるのかが本当に理解できなかった。が、実際に触ってみるとわかる。まるい見た目を作り上げているのは幾重にも重なった細かい羽根の毛並みである。触ると、指があたたかい毛並みの中に埋もれていくのだ。わたしが好きなのは特に胸元である。背中部分は風切羽が多いからつるりとしているのに対し、胸元はそれがないためとにかくフワフワなのだ。恐らく構造はそんなに変わらないだろうし、どの鳥も胸元はフワフワなのではないだろうか。かわいい。たまらん。愛した。

それに疣のようなぷつぷつに縁取られた瞳。この縁取りはアイリングと呼ばれ、文鳥の場合は赤いし、メジロの場合は白い。この少しグロテスクで鮮やかなアイリングの中に嵌まった瞳は、文鳥の場合一見澄んだ真黒だ。潤んだ表面は僅かな光でも吸い込み、きらきらとハイライトが絶えることがない。しかしこの瞳を、朝の涼やかな光に透かして見てみてほしい。初めて見たとき、感動に胸が打ち震えた。

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真黒だと思っていたそれは、透明な茶色だったのだ。そして中央には凛々しい瞳孔がある。彼がわたしを見つめるとき、その瞳孔がきちんとこちらを向いていたことを思うと、たまらなく愛おしい。

また、とてもニッチだが推したい部分がある。ももひきである。

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わかりやすい写真がなかったのだが、見えるだろうか、フワフワ・まるい・かわいいといった印象を覆す、この巨人のように力強いももひき。このももひき部分は、普段ちょこんとしている時には羽根の中に折り畳まれてしまう。しかし周囲を警戒しようとして縦に伸びるとき(伸び縮みについては後述する)、このたくましいももひきが現れるのだ。かよわいイメージを持たれがちな小鳥に宿るこの生命力。なんて美しい生き物なんだ。愛だ。

嘴や脚もかわいい。鳥の脚については、小川洋子「ことり」の十姉妹の描写が秀逸である。

どんな種類でも小鳥は羽を広げた瞬間、驚くくらい大きく見える。これほどの大きさを一体どこに隠していたのか、と思わず口走ってしまいそうになる。翼の下にはこちらが想像もしない何かが潜んでいるのだ、と思い知らされる。と同時に、止まり木で小刻みにステップを踏む脚が、とても老いて見えることにはっとする。柔らかい羽や頑丈な嘴や一点の曇りもない眼球に比べ、二本の脚はか細く、内臓が手違いではみ出たかのような弱々しい肌色をして、そのうえ小さな瘤がいくつも盛り上がっている。本人の意思とは無関係に好き勝手に盛り上がった瘤たちは、くっつき合い、つながり合い、所々黒ずみながら、一羽一羽に独自の模様を刻んでいる。どんなに元気そうに見せても、脚だけは誤魔化せない。そこには彼らが生きた時間の堆積が凝縮されている。(小川洋子『ことり』)

おひいの脚は、まだ若く幼い色をしている。飼鳥で、外の汚れに触れたこともないからだろうか。彼の淡いピンク色の脚は、小川洋子の描写にあるような「時間の堆積」をまだ感じさせない。それだけに不安で、でも本人(本鳥)がその脚でたくましく飛び跳ねているのを見ると、怠惰に肉づいた運動不足の己の太ももや脹脛がなんのためにあるのか、よくわからなくなる。ただ、人間に比べてあまりに美しい生命だ、ということはわかる。

タイトルを改訂しよう。かわいい、なんて言葉で収まってたまるか。かわいい。たくましい。うつくしい。全て兼ね備えた存在が鳥である。


伸びる・縮む・ふくらむ・溶ける

鳥の伸縮性については、写真をご覧いただいたほうが早いだろう。多くの動物がそうであるように、緊張モードの時は伸び、リラックスモードの時は縮む。

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はいかわいい。そして一目瞭然。同じ鳥。
偶然伸びている写真をSNSにアップしたとき、「おひいちゃん痩せた?」と言われて笑った覚えがある。伸びているだけである。

鳥の膨らみについては、冬の鳩を思い返してもらうのがいいだろう。首を引っ込めて、おばあちゃんの毛糸玉のような形をしたあのもこもこの鳩。夏と見比べると、明らかに膨れている。膨らむ雀もかわいくてオススメである。鳩が毛糸玉だとするならば、雀は毛玉そのものだ。有名なシマエナガもよく溶けている写真を見るように思う。もはや語る言葉もない。愛の塊である。

そしてこの溶けた鳥がつがいになると、より一層鳥の幻想性が増す。川端康成『禽獣』では、溶け合って眠る菊戴という鳥のつがいを下記のように描写する。

小鳥屋が持って来たのは夜であったから、すぐ小暗い神棚に上げておいたが、ややあって見ると、小鳥はまことに美しい寝方をしていた。二羽の鳥は寄り添って、それぞれの首を相手の体の羽毛のなかに突っこみ合い、ちょうど一つの毛糸の鞠のように円くなっていた。一羽ずつを見分けることはできなかった。(川端康成『禽獣』)

そして語り手は、「人間でも幼い初恋人ならば、こんなきれいな感じに眠っているのが、どこかの国に一組くらいはいてくれるだろうかと思った。」と続けて語る。この語り手は、かつて恋人と心中しかけたことがあった。心中に至るほど深い——自他未分明の関係性を、鳥のつがいの溶け合う姿に投影するのである。川端のように、鳥の溶ける姿には究極の安寧を見出すこともできるのだ。

最後にかわいいうちのおひいちゃんエピソードを足しておくならば、片脚立ちのままボーッとしている時がよくあることだろうか。飼い始めた時には片脚を痛めてしまったのではないかと焦ったものだったが、単にリラックス状態だとよくあることらしい。フラミンゴでもあるまいに、かわいい。愛した。


人と鳥は、愛しあえる

おひいはよくわたしの目を見つめる。見つめながらせわしなく首を傾げている。鳥が首を傾げるのは、相手をよく見たいからだそうだ。一年も一緒にいておいて、これ以上この顔の何を見ようと言うのだろうか。まあわたしも一年おひいと暮らした結果、全く見飽きないのだけれど。じっとおひいと見つめ合っていると、たまらなくてこちらからにやけてしまう。それでもおひいはわたしを見つめ続けるから、そのあまりの愛に苦しくなる。

何気ないタイミングで踊り出すのもかわいい。踊るとき、重心がお尻のほうに落ちてモチモチとジャンプしているのがいい。リズムをつけて飛び跳ね、前奏を奏でると、カチカチと嘴を鳴らしてチ〜ヨチヨ、とその子固有の歌を歌ってくれる。多頭飼いの場合、他の子の歌がうつったりすることもあるそうだが、おひいは一体どこでこの歌を覚えてきたのだろう。お父さんから受け継いだものなのか、それともペットショップでわたしと出会うまでの間にすれ違った、どこかの鳥の歌なのかもしれない。でも彼が知る可能な限りの愛のうたを、わたしにだけ捧げてくれる。……いや、嘘。友達が遊びに来たときに、友達の指の上でも踊ったでしょう。この浮気者。大好きだけどさ。

そうやって、わたしたち愛し合ってる反面、おひい——というか文鳥はよくキレる。差し向けられた指を嘴だと思ってキレるというのは飼育書にもよく書いてあることだから知ってはいたのだけれど、それ以外のよくわからない理由でもよくキレる。たとえば写真を撮ろうとiPhoneを向けた時(スマホ嫌い?)、自分の歌を歌い終わった時(俺の歌を聞け! ってこと?)、iPadのツイートボタンを押そうとした時(まじでなんで?)など。おひいはキレるとキャルキャルキャルと大声で怒鳴ってくる。この声については、こちらの動画がわかりやすい。かわいい。

その他、手をちまっと噛まれたりするとけっこう痛いし、ささくれ剥かれると流血するし、一時期わたしの唇を攻撃するのにハマってた時は本当に痛かった。(今もたまにやられる。痛い。)毛繕いしようとして甘噛みしてくれるのならまだしも、明らかに攻撃の意図があるくちばしドリルは、相当威力がある。

それでも何だかんだ、この子わたしのこと好きだなあと思うのは、わたしの両の掌に包まれたときのこの顔を見せてくれたとき。

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頭を捏ねられ、もぞもぞと心地の良い場所を自分で探して、ぴったり掌のかたちにおさまったときのこの蕩けるような表情。眠いのか、うとうとと瞳を細め、それでもこちらを見つめてくる。25gと40℃、魂よりほんのすこし重くてあったかい、いのちの塊。

ああ、人と鳥は愛しあえるのだなあと、つくづく思うのです。

***

最初は鳥という生き物の魅力を書こうと思っていたけれど、結局親バカ惚気話ばかりになってしまったし、書ききれなかった。実際、街中で鳥を見かけると「おひいに似てる…」「おひいと仕草が一緒…」とばかり呟いている。実際、ほとんどの鳥の仕草って同じなのだとおひいと暮らして初めて知った。毛繕いする仕草とか特に。だが、鳥を単に儚い自由の象徴と捉えていると、痛い目を見る。物理的にも。もれなくおひいにくちばしドリルを食らうだろう。

鳥は——と主語を広げすぎると怖いから、少なくともうちのおひいちゃんは——かわいくて、たくましくてうつくしくて、ももひきが最強にかわいくて気が強くてモチモチフワフワでキレキレで瞳が美しくてわたしをめいいっぱいに愛し愛されてくれるたまらない最高のかわいい愛——愛のかたまり。25gと40℃の、最強の愛。わたしたち、愛し合って生きてこーね。


おまけ

あー、やっぱりおひいの話しか出来なかった!笑 鳥全般のことを知りたい方用に、おすすめのYouTube等を下記に載せるので、許してください。といいつつ3分の2が文鳥メインになりましたが。。文鳥かわいい。。

●たかはら さん

文鳥5羽、オカメインコ1羽、亀1匹と生活されている方。Twitterを是非フォローしてみてほしいです。多頭飼い特有の、文鳥同士の絡みがかわいいです。最近YouTubeも始めたそうで、手軽にブチギレ文鳥を摂取できます。

●ナナモモコ さん

白文鳥ふぅちゃんと暮らすわたしと同い年か一つ上(恐らく…?)のYouTuberさんです。ふぅちゃんもかわいいし、ナナモモコさんも元気溌溂で好感の持てる方でかわいい!昔から鳥のいる生活をされてたそうなので、鳥に慣れてる感がすごい。

●白いカラスチャンネル さん

アルビノのカラスと一緒に生活されている方です!文鳥に見慣れるとカラス、でかい…ももひきたまらん…おちりたまらん…となります。一緒に洗濯物を畳んでくれるところはさすがカラス…!賢い…!


(ちなみにおひちゃんのことは、Twitterで時々載せてます!かわいい!)


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