【読書コラム】ずっと喪/洛田二十日
数日前にSNSでたまたまこの本の存在を知り、どうしても読みたくなって購入。
ショートショートなのでさくっと読めるというのもあるが、とにかくストーリーに引き込まれてあっという間に読み終えてしまった。
想像の何手も先を行く話の展開。
けれど、突拍子もない設定かと言われるとあながちそうでもないんじゃないかと思う。
どの話も現実にきちんと即しており、「作り話」にしては上手く出来すぎていると錯覚しそうになる。
そのくらい日常に馴染むような題材で、普通だと思われる出来事も少しばかり視点を変えて、なおかつちょっとばかり環境が違っていたり諸々の要素の組み合わせが違っていたら、もしかしたらあり得たかもしれない世界線が描かれているところに凄みを感じる。
特に好きだった話についての感想を以下に書いてみる。
・私のセコンド
自分にとって都合の悪い状況からいつも救ってくれた「セコンド」。強制退場は、主人公にとって「ラッキー」との気持ちの方が強かっただろう。
そして主人公が大人になり、理不尽な社会人生活に疲れ果て、身も心もぼろぼろになった時に久し振りに現れたセコンド。
上手く逃れられるはずだった「試合放棄」の合図は、主人公を解放する唯一の手段であると同時にとても残酷な宣告でもあることがどこまでも皮肉で胸がキリキリした。
・パックマン
パニック映画のようだなと思いながら読み進めているとそんな単純なものではないことに、いや、ある意味単純とも言えることに心がざわつく。
平面上では何の脅威でもないものが、匿名の訴えを抱えて可視化されることで無差別にあらゆるものを飲み込んでいく様は、形を変えて現実でも起こっているのではないか。そしてそれは人を疑心暗鬼にさせることもあるのだと知る。
わずかな歪みが事態を揺り動かすこともあるのだと肝に銘じたい。
・下戸の憂い
もう何が何だかである。
ひたすら各々が喋りたい放題やりたい放題飲みたい放題。わけがわからない。
個人的には、千と千尋の神隠しと森見登美彦の世界観を混ぜこぜにしたような印象を受ける。
話が進むにつれてどんどん展開が速くなり、ノンストップでカオスの極みが続いている状態である。
轟き上戸ってなんですか…。
とても面白かった。
・ずっと喪
ずっと喪に服している村の話なのでどんより暗く重たい空気を纏っているかと思いきや、ほどほどにカラッとしており悲壮感は感じられない。
突っ込みどころは多々あれど、ずっと喪である理由が心底恐ろしかった。
そうあらねばならない理由もきっとこの村にとっては切実なので、なおさらやりきれない…。
そのことに特に違和感を持つでもなく順応している主人公も恐ろしい。
他に方法があってほしいと心から思う。
昔にこのような村が実在していたのではないかという気もしてくるし、もしかしたら今も日本のどこかで…
真実を知るのが怖いので調べていませんが、すぅっと血の気が引くお話でした。
読み終えてしまったのが勿体ないと感じた作品は久々で、いい読書となりました。
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