「夏祭り」事件。
これは、二度の夏を跨いだ
お盆祭りのお話。
この町のお盆祭りは毎年、商工会の主催で
公民館の駐車場を使って
二日間に渡って開かれる。
商店街の人達が
この日の為に用意したスペシャルメニューを
販売する屋台が所狭しと立ち並び
大賑わい。
町の内外問わず
大勢の人が訪れて
たくさんの笑顔と活気で溢れている。
そして
この町のお盆祭りにも
目玉イベントとして
「のど自慢大会」がある。
子供からお年寄りまで
幅広い層が自由なスタイルで参加する。
ある若者は自前の仮装をして
ウケ狙い一本で爆笑を誘い、
あるおじいちゃんは
歌ってる最中に入れ歯を飛ばし
これまた爆笑(?)を誘う。
大会も佳境に入った頃
三人の若い女性が特設ステージに登った。
観客に自己紹介した後、
浴衣の裾を少し捲って歌い出す。
曲は
「夏祭り」
当時、ガールズバンドのWhiteberryが歌い
夏の定番曲としてヒットし頭角を表した曲だ。
テンポの良い歌い口と
若さと楽しさにモノを言わすような
弾けたパフォーマンスは
お祭り会場全体を
さながら野外ライブの様に盛り上げた。
観客からは拍手喝采の嵐。
みんなが笑顔で見つめていた。
彼女たちは
その年の最優秀賞(グランプリ)に輝いた。
打ち上げ花火が大輪の花を咲かせる中
全てを出し切った彼女たちの顔は
グランプリのトロフィーを抱えながら
満面の笑顔に満ち溢れていた。
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翌年のお盆祭り。
あいも変わらず
町が一体となって活気を作り
大勢の人で賑わいを見せる。
慣れない仕草で下駄を履く女性が
少しばかり増えた気がする。
この辺りが
一年の時の流れを感じさせる。
もちろん
「のど自慢大会」も開かれた。
ブレイクダンスしながら歌うチビっ子、
前回は入れ歯を飛ばし、今度は歌ってる最中に
アゴを外したおじいちゃん。
そして、
前回グランプリを取った
三人組の女性が今年も参加した。
前回と同じ特設ステージに立ち、
歌った曲は
「夏祭り」
前年同様、見事なパフォーマンスだった。
会場も盛り上がった。
ただ一つ、問題が・・・
この「のど自慢大会」には
一つのルールがある。
「同じ曲を同じ人が二年連続で歌ってはいけない」
マンネリ化を防ぎ、大会の活性化を図るための
ルールである。
しかし、彼女達は前年と全く同じ曲を歌っている。
この状況に困惑した進行役から
実行委員にお伺いが入る。
「これってルール違反じゃないですか?」
すると、彼女たちはこう答えた。
「今回は
ジッタリン・ジンさんの方です!!」
そう来たか・・・
確かに「夏祭り」は
元々はジッタリン・ジン
(1990年に「プレゼント」「にちようび」がヒットした音楽グループ)の曲で、
お祭りの当時はWhiteberryの代表曲の一つと認知されていたが
紛れもなく
「カバー曲」
である。
従って、全く同じ曲とは解釈出来ず、
ルール違反とは言い切れない。
事実とは言えど
こんな屁理屈の様な事を言われたら
幾らお祭りでも反感の一つや二つは買いそうだが
そうはならなかった。
「私達は、この「夏祭り」が大好きです。
どうしてももう一回歌いたかった。
去年、みんなと笑顔になって楽しむ事が出来たから!」
三人が訴えた、
その熱い感情の込められた言葉と
込み上げる泪で潤んた瞳。
それが心に痛く響いたのか
会場からは惜しみない拍手が鳴り響いた。
今回は残念ながらグランプリとはならなかったが
彼女たちの瞳は、溢れる涙とともに
屈託なく輝いていた。
最高の笑顔だった。
前回と同じ
満開の打ち上げ花火と共に・・・。
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あの「夏祭り事件」以降、
カバー曲であっても
その原曲を含めて
二年連続して歌う事は原則禁止となった。
運営としてもルールをうやむやには出来ないから致し方ない。
彼女たち三人の姿はあれから見なくなった。
聞いた話によると、
あの夏の終わりに
それぞれの道に進むために
町を離れたとの事。
彼女たちも、次にいつ会えるか分からないから
とりあえずの「最後の思い出」を
作っておきたかったのだろう。
次に三人がこの町に集まった時、
お祭りに参加するだろうか。
ルールの重箱の隅を突っついてしまった事に
後ろめたさを感じているかもしれない。
・・・大丈夫、きっとまた参加してくれる。
二年にかけて
お祭り全体を盛り上げて
たくさんの人たちも
そして本人たちも
満面の笑顔になったんだから
みんなが忘れないで
三人が帰って来るのを待っている。
彼女たち三人が揃って歌う
「夏祭り」だけは
未だにこの町のお盆祭りの
「唯一の特例」
になっているのだから。
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〜あとがき〜
☀この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です☀
https://note.com/kurosakina0/n/nbe3250227e3e
7月イベントに続いての参戦です🔥
作品自体はほぼフィクションなんですが
自分なりには
少しは捻った内容かなと思ってます。