クロスポイント 前編〜君へ、逢いに行く。
「その丘にある十字路の中心は
「想い」が天へと通じる場所」
今、僕はその丘を目指している。
大切な人に
想いを伝えたくて...
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県立の高校へ入学して
半月余りが経とうとしていた
春の終わりを迎える頃。
一つの知らせが届いた。
物心が付いた頃から中学を卒業するまで
いつも一緒に過ごしてた
幼馴染の女の子が
散っていく桜に乗って行くように
空の向こうへ舞っていってしまった。
自転車から転倒して
車道に飛び出た子供を
車からかばって・・・
彼女は卒業と同時に
少しの間だけ親の故郷で過ごす事になり、
僕らが過ごした街から
はるか遠く離れた場所へ
引っ越していた。
僕が彼女に
「次はいつ会える?」と聞いた時、
「もう会えない様な顔してウケる。
家売った訳じゃないし夏休みに帰ってくるから。
そん時にカノジョ作ってたら祝ってやるよ。」
そう言って笑ってた。
...もう会えなくなっちゃったじゃん...
僕と彼女は本当にただの幼馴染の関係で、
悔しいけど僕にはカノジョが出来なくて
そのくせ彼女にはイケメンの彼氏がいた。
ケンカして別れた事を僕に言ってきて
茶化したらムッとされて足を蹴り飛ばされる。
そんな関係だった。
恋心なんてなくて、腐れ縁みたいな感じだった。
あの時は...。
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梅雨の季節。
ひたすら雨が降り続く空。
僕は吹奏楽部の部室にいた。
中学の時から吹奏楽部で
チェロを弾くのが好きだった。
...まあ、吹奏楽部に気になる女子の先輩がいるというのが一番の理由だったが。
入部したのは春の新歓の時。
いつ先輩に話しかけるタイミングを作るか
そんな不純な事ばかり考えてた。
...あの知らせが来るまでは。
降り止まない雨粒の音で
心にポッカリ開いた穴が
広がっていくのを感じる。
もう会えなくなったショックとは別の
胸の苦しさ。
僕には、雨の音への敏感さから
音階の様に聞こえる謎の音感がある。
配列によっては、言葉の様に聞こえる事も...
あれだけ気になってた先輩の事を
いつからか目が追わなくなっていた。
6月も終わりを迎える頃、
あれだけ待ち焦がれていた
先輩と話す機会が出来た。...のだが
「君、演奏中ずっと
目が上の空じゃん、
カノジョの事とかでも考えてんなら
はっきりいって迷惑なんだけど。」
気になってた先輩にこんな事言われたら
普通はショック大きすぎで立ち直れなさそうな
もの。
普通にショックではあったけど
気にならなかった。でも...
「カノジョの事でも考えてんなら」
その言葉で、もう
気持ちを認めるしかなくなった...
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その丘の存在を知ったのは
実家を離れた6歳上の姉からの
一本の電話だった。
「彼氏と結婚する事になった。」
その時のいきさつが
「想いが届く丘で彼氏への思いを一人で
思い切り叫んだら
次の日にプロポーズされた。」
最初は「いや偶然だろ、
何恥ずかしい事やってんだよ。」
と呆れたが
だんだん気になってきて
スマホで調べたら
目に入った掲示板への一件の書き込み。
「亡くなった妻に想いが届いた。」
にわかに信じがたいが、どういう事だ?
姉にLINEを入れて
その丘の場所を聞き出す。
帰ってきたメッセージに書かれていたのは...
「アンタの幼馴染の親が住んでる街の近く。」
新幹線に乗らないと
とても行けない場所だ。
「無理だ...」と諦めた、
...聞いた直後は。
でも、
「もう一度、会いたい。」
その日から、旅費を稼ぐために
学校終わりや休みの日に
近くのコンビニでバイトを始めた。
初めて社会で仕事をするのは
帰宅して玄関に倒れ込む程キツかったが
本当にあの丘でまた会えるんなら...
今年の僕の夏は、まるで彼女に試される様に
過ぎていく...
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遅めの夏休みで帰省していた姉が
自分の住んでいる街へ帰る時、
僕も同じ新幹線に乗った。
もちろん、バイトで稼いだ
自分のお金で。
姉についていったのは、その丘へ行く為の
移動手段がなく、
姉に頼み込んで車を出してもらう為だ。
街に着いたのが夜遅くだったので
その日は姉のアパートに泊めてもらう。
翌日、姉の車の助手席に乗り込み
「願いの届く丘」へ向けて
走り始めた。
君に逢う為に。
車の中で、一つ疑問を感じていた。
丘に願いを伝える条件は夕方。
姉の街から丘までは約三時間。
昼過ぎには、丘へ着いてしまう計算だ。
その疑問を姉に伝えると
「先に行っとく場所があんだろ、
アンタはせっかちなクセに鈍すぎんの。」
頭をコツンと叩かれ、そう言われた。
そして、車はナビに設定していた
目的地についた。そこは...
彼女が引っ越した街。
そこに建つ二階建ての古びたアパートだった...
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続く。
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