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タマゴ焼き(はるき風)のつくりかた+recipe
完璧なタマゴ焼きなどといったものは存在しない。完璧なオムレツが存在しないようにね。
仮定法の復習を切り上げると、豆太は台所に向かい卵2つを冷蔵庫から取り出して溶き始めた。豆太というのは彼の本名である。豆太は名前を名乗るのがいつも億劫だった。父と母がまぐわった日が節分だったということが、その名の由来だ。豆太は名を名乗るたびに母と父の性行を想起した。
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タマゴを十分にかき混ぜ終えると、白だしに砂糖、塩を目分量加えて、ふたたび箸でかき回した。ゆっくり、出来る限り丁寧に。
別に凝ったものでなくていい。そう思いながら、豆太は“ふつう”を回避するかのように、そのたびひと手間工夫をほどこす。月曜日はローズマリーをいれた。火曜日はバジル、水曜日は黒胡椒。平日もおわりに近づいて、台所にあるスパイスの類はどれも試してしまった。とろけるチーズ。そんなベストアンサーがあったことに豆太は水曜になって気がついた。
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悪くない。豆太はチーズのはいったタマゴ焼きの味をみてつぶやいた。木曜日、つまり今夜はそこにベーコンも挟む計画を実行するつもりだ。
If I were bird,I could fly the sky.
豆太は文法書の例文をまるごと記憶するために、その情景まで鮮明にイメージするように努めていた。豆太はその同語反復的な例文(If I were bird,I could fly the sky.)の数々に愛着さえ抱いていた。時として、その退屈な風景が執拗にフラッシュバックする、いざ弱火で熱したフライパンに溶いたタマゴを流し込むという時でさえも。
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出来上がったタマゴ焼きを四つに切り分けると、豆太はひときれ味見した。
抜群の味だったが、豆太は肝心のベーコン作戦のことをすっかり忘れていたことに気がついた。僕らはとても不完全な存在だし、何から何まで要領よくうまくやることなんて不可能だ。不得意な人には不得意な人のスタイルがあるべきなのだ。やれやれ。そう心の中でつぶやいて、のこりの三切れを冷蔵庫にしまっておく。こうしておくと、翌朝にはしっとり(お寿司屋さんの厚焼きタマゴのような仕上がりに)なっている。
レシピ
・たまご×2(きみがどんな価値基準でその二つをパックの中から選び取るか、ぼくには見当もつかない。それだけ女の子はむずかしい)
・チーズ(それも、端的にとろけるやつさ)
ブラックペッパーなんかをいれてもアクセントになっていい。
「タマゴ焼きは日々変化しているんだよ、ナカタさん。毎日時間が来ると夜が明ける。でもそこにあるのは昨日と同じタマゴ焼きではない。そこにいるのは昨日のタマゴ焼きではない。わかるかい?」