Lemonをいかに訳さむ…いと奥深き古文訳J-POPの世界~亀歩戦術日誌~
こんにちは、こいずみりくです。
突然だけど、古文訳というものに触れたことはあるだろうか。
国語の授業で延々とやってたあれは、いにしえの文を現代語に置き換える現代語訳という作業だ。今回紹介するのはそれの逆、現代の日本語文学を平安時代のことばで表現する古文訳なのである。
有隣堂書店という本屋さんの公式チャンネル「有隣堂しか知らない世界」で、衝撃の動画を発見した。思いっきり現代のJ-POPの歌詞を平安風に大胆アレンジして歌う古文訳J-POPシリーズである。
現在のところ全部で6曲出ているが、本記事では私が衝撃を受けた3曲を紹介したい。
Pretender(Official髭男dism)
古文訳J-POPという何ともいとをかしな企画を持ち込んだのは、有隣堂書店バイト店員の女子大生、折橋さんだ。彼女は、現代のJ-POPを平安時代の言葉に翻訳するだけじゃなく、それを実際に歌い上げる。
Pretenderといえば、切ない失恋ソング。平安時代の文学も恋愛ものが多いので、意外と相性が良いのかもしれない。
この古文訳のすごいのは、ただ機械的に訳すのではなく、平安時代の恋愛事情に即して歌詞を大胆解釈している点だ。
例えば、歌詞に恋人がそばにいる描写があるけど、当時の恋愛では実際に二人が会ってしまうと恋愛が成就したことになるので、遠くから垣間見するみたいな表現に改まっている。
とは言え、この作品はシリーズの中では比較的素直な古文訳になっているので、入門にうってつけだ。
プレイバックpart2(山口百恵)
令和の「Pretender」に続いて、昭和の歌謡曲「プレイバックpart2」の古文訳を見てみよう。
真っ赤なポルシェを乗りこなす女性がミラーをこすったのこすらないのと小競り合いを繰り広げるこの歌。当然ながら平安時代にはポルシェは存在しない。どうやって訳すのか?
今回の古文訳で折橋さんが見せるのは、ポルシェ→高級車→牛車(ぎっしゃ)という超解釈。牛車を巡るトラブルのエピソードを、なんとあの名作『源氏物語』から引用して展開している。
とても大胆な翻訳だけども、彼女の解説を聞くと平安時代の京の都で繰り広げられる大騒動が、ありありと浮かんでくる。シリーズ中屈指の名作かもしれない。
Lemon(米津玄師)
有隣堂書店のバイトだった折橋さんが大学を卒業し、国語教師になって再登場。今回の「Lemon」の古文訳も、ぶっとんでいる。
曲のタイトルになっているレモンは当時の日本には存在しない。これをどう訳すか。原曲の苦しい失恋の世界観を壊さずに、今回も大胆な解釈をしてゆく。
今回は『和泉式部日記』という作品をベースに、小野小町の歌や古今和歌集に紹介する歌を引用して物語を構築する。
和泉式部が恋人を失って沈んでいると、その恋人の弟から恋文が届く。その恋文に添えられていたある植物が、新しい恋の始まりを告げる。この植物こそ、今回「レモン」の訳語として折橋さんが選んだもモチーフだ。
これはもう、和泉式部の世界と米津玄師の世界が見事に融合した名作といっていい。折橋先生の熱のこもった解説を聞いていると、古文をまた勉強したくなってきた。
今回紹介した以外にも、King Gnu「白日」、星野源「恋」、DISH//「猫」の古文訳が上がっている。皆さんも是非この奥深い古文訳の世界に触れてみて欲しい。
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