こんなことなら白にするんだった。#29
仕事が終わり、今はカフェにいる。
平日は気合いを入れて身支度をしようと思う気になれないので、服装のことなんて何も考えずに家を出てきてしまった。
それでカフェに着いてから気づいたのだけれど、僕はシャツからズボンから靴まで全身まっくろくろすけではないか。しかも無地で統一されている為、見ようによっては黒い影が椅子に座っているように見えなくもない。
外を歩くときはベージュ色のコートを羽織るのでまだなんとかなるが、コートを外して席についた今、店員さんは僕の存在に気づいてくれているだろうか。
さっきコーヒーを持ってきてくれた店員のお姉さん、ちょっと引き返してからこっちに来てませんでした?
おまけに僕はブラックコーヒーを頼んでしまっているし、揚げ句の果てに黒いマスクまで着用している。
スマホのカバーがミント色なのがまだ救いだ。
こんなことならバランスをとって、髪をどぎつい金髪に染めてからカフェに来るんだった。ああ、そういえばカバンも黒い。黒革の椅子に溶け込んですこし見えなくなっていた。
「苺たっぷりスフレパンケーキ」を頼みたかったのに、おそらくさっきの店員さんはもう既に僕のことを見失っているだろう。店内を懸命に探している間に、絶妙なバランスで二段重ねになっている「苺たっぷりスフレパンケーキ」も崩れてしまうかもしれない。
見つけてもらう為にコートを着てもいいが、パンケーキを食べるときはさすがに邪魔なので結局外すはめになる。何かコートを着たり外したりする変な人いるなあ?と変な目で見られるに違いない。
それならまだ、なんかあそこの席にぼんやりと影らしきものが見えるなあ?と思われた方がマシだ。
ラストオーダーまで残り20分。
見つけてくれることを祈って呼鈴を押すしかない。
店員さん、僕は確かにここに居ます。
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