【東日本大震災10年】防災を専門に学ぶ高校生たちの話
東日本大震災から10年を迎えました。
その被災地で、防災を専門に学ぶ高校生がいることをご存じですか?
それが、宮城県多賀城市にある県立多賀城高校の「災害科学科」です。
5年前に開講したばかりの〝新米〟学科で、私は開設当初から取材に当たってきました。
「こんな学校があるんだ」「うちの子どもも通わせようかな」
と、少しでも思ってもらえればと思い、ご紹介します。
■特徴的なカリキュラム
防災系の専門学科は、全国では2例目。
災害科学科の“先輩”にあたるのが、兵庫県立舞子高校(神戸市)の「環境防災科」です。阪神・淡路大震災の教訓から「市民のリーダー」を育てようと、2002年に開講しました。
「災害から多くの命とくらしを守ることができる人材を育成する」
2016年に開校した多賀城高校の「災害科学科」は、
防災専門科目がカリキュラムの3分の1を占めているのが特徴です。
普通科の学習内容に加え、災害史を学ぶ「社会と災害」や、自然災害が人間に与える影響を考える「自然科学と災害」など独自科目を設けています。
非常食の作り方や避難所運営の方法を身に付ける実習、大学教授やDMAT(災害派遣医療チーム)経験者による特別講座があるのも珍しいポイントです。
まさに実践的な「生きた防災」を教える防災教育の拠点と言えます。
■「命を守ることのできる人に」
これまでに1、2期生の計72人が災害科学科を卒業。進学、就職と進路はさまざまです。
「将来は、DMAT(災害派遣医療チーム)で活躍する看護師に」
「教員として、命を守る備えを子どもたちに教えたい!」
災害科学科の卒業生は、志も高く夢への思いを熱く語ってくれました。
生徒の誰もが、3・11を経験しています。
自宅が壊れたり、大切な人を失った人も少なくありません。
そうした被災体験が学びへの原動力となり、
自身の夢と結び付いている卒業生の姿が印象的でした。
■卒業生はいま
話を聞いた災害科学科「1期生」の一人は、
3・11を経験した自分が、災害にどうやって立ち向かうのか――
その答えを模索します。
そして出た答えが、防災の知識を持った「看護師」になることでした。
いま彼女は、大学で災害看護学を学ぶ2年生。
コロナ禍で思うようなキャンパスライフが送れず、もどかしい日々を過ごしていました。
そうした中で大学以外でも学ぶ機会をつくろうと、
東北で災害医療に関心のある学生が集まる団体に所属して、
実際に3・11で救急救命に当たった医療関係者からオンラインで話を聞いたりと、いまできることに地道に取り組んでいます。
災害科学科で学んだことを財産にして、
「卒業生として震災の教訓を私なりに伝えていける看護師になれれば」と語っていた姿が印象的でした。
■災害科学科の挑戦は始まったばかり
これから1期生がどのような復興の道を拓いていくのか、被災地の“希望の種”の成長を見守りたいと思います。
多賀城に先立ち開講した舞子高校の環境防災科では、語り部や災害ボランティアで活躍する卒業生が母校の後輩と積極的に関わって、経験や失敗談、人脈をも受け継いでいるといいます。
それが、阪神・淡路大震災の被災地発の防災教育や教訓の深化につながっています。
今回取材した卒業生の一人が、取材を受けてくれた理由をこう語っていました。
「災害科学科に入ろうと思う子が少しでも増えてくれれば。本当に良い学科なんで」
「3・11」後を生きる1期生には、夢にまい進しながら、同期や後輩、そして全国の若者たちとのタテ・ヨコのつながりをさらに強くし、広げていってほしいなと期待しています。