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自己と外界との境界線(離人症のこと)

 私が「離人症」を経験したのは2008年秋のことだ。
もう16年前のことになるが自分のこころと身体が乖離した不快な感覚は今でも忘れることができない。
その年の春、スキルス胃がんを患い一年の間に9回もの入退院を繰り返していた夫が逝った。
夫の闘病中に私は「介護うつ」となり内科で定期的に抗うつ剤と精神安定剤の投薬治療を受けていた。

 MSDマニュアルには「離人感・現実感消失症」とは
<自身の身体または精神プロセスから遊離(解離)しているという、持続的または反復的な感覚からなる解離症の一種であり、通常は自身の生活を外部から眺める傍観者であるような感覚(離人感)、あるいは自分の周囲から遊離しているような感覚(現実感消失)を伴う。>
と、書いてある。
誘因は、PTSD、重度のストレス、うつ病、不安障害、解離性障害、薬物の乱用等らしい。

毎年10月は顧問先の決算報告書作成に忙しい時期で、そこに亡夫の遺産相続が重なった。
10月中旬、鬱々として何も手につかない、そんな状態で何とか顧問先の決算だけは仕上げて税務署に提出した。
その後、仕事は在宅ワークにシフトして時間的余裕ができたはずなのに症状は悪化の一途を辿っていく。
その症状は
● 自分が自分じゃないような感覚でここに存在しているけど実感がわかないし、自分で自分の顔を鏡で見てもこれが現実の自分なのかわからない。
● こころと身体の実体感が無くなってとても不安定な感覚で、自分の思考や感情、身体の感覚が自分のものとは感じられない。
● 眠剤を飲んでも眠りたいのに眠れないし、たとえ眠りに入ってもリアルな悪夢で目が覚める。
● 自分が自分を俯瞰しているような感覚と浮遊感。

と、不快きわまりない感覚に身体とこころは悲鳴をあげた。
11月下旬、通院中の内科の夜間診療を緊急受診して症状を訴えると、医師は精神安定剤の点滴を時間をかけて入れてくれた。
点滴投与中に私は心療内科を受診することを決意した。
とにかく「離人感がある」というのはいい状態ではない。
でも、逆の考え方をすれば、こころの奥底に無意識に押し込んでいた何かがそのままでは自分のバランスを取り続けられないと、脳と身体が判断して症状として外に出てきたのかもしれない。

心療内科を受診して2か月ほどで「離人感」は消滅した。
そして、心療内科を受診し始めてから16年目の秋を迎えるが、その後「離人感」は発症していない。
発症はしていないが「PTSD由来のうつ」と診断され、今でも投薬治療を継続している。
離人症を発症していた時に「何もしない自分を受け入れる勇気を持つこと」と、言ってくださった医師の言葉は金言だ。
その都度状況に合わせて落としどころを見つけていくという生き方もそんなに悪いものでもないのかもしれない、と今では思っている。

#離人症 #現実感消失症 #うつ #心療内科











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