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退室の極意(EAPメンタルヘルスカウンセラーの視点での提案)

ナースコールに呼ばれ、ケアが終わっても、お話が止まらなかったり、怒鳴られたりして、なかなかすんなり退室できないということがあります。
それが、続くと、精神的に疲労し、
その利用者の声や表情が頭から離れなくなったり
仕事が辛くなったりすることもあります。

優しいスタッフほど引き止められる

傾聴しなければという使命。
話を切って、クレームになるのではという不安。
理不尽に怒鳴る高齢者と暮らした経験などないし、
親や教師、習い事や部活でも大人に叱られた経験の少ない世代にとっては、
1対1の場面で、強い口調で何か言われることは恐怖。
スマホ世代は、SNSでのコミュニケーションには慣れているけれど、対面で、しつこく引き留められたり、滝のように終わらない話を聞くのは、まさに滝行!!
熟練のスタッフも、心身が疲労した状態で、難しい利用者に対応し続けるとバーンアウトすることもあります。

お客様は変えられない

理不尽なクレームをいわれたり、大声をあげられても
それはスタッフのあなたに向けられたものではありません。
スタッフを引き留めて、自慢話、苦情、クレームを延々と話される高齢者は
孤独やコンプレックス、怒りを抱えている方が多いのです。
自分自身や社会に対する怒りがスタッフに向けられることもあります。
家族や友人が聞いてくれない自慢話をスタッフに語ることもあります。
これって、すぐに変えられるものではありません。
もちろん、精神科の受診が必要なケースは別ですが。

自分を変えるのも難しい

人は変えられないが、自分は変えられる。
よく聞く言葉ですが、それって、とてもストレス。
そこで、変えるのではなく、少しバージョンアップしてみると
考えてみましょう。
長い話が始まったら、時計を見て「15分でこの部屋を出るゲーム」を始めてみて下さい。
対人援助のプロとしては傾聴だけでなく時間のコントロールもできなくてはなりません。
高齢者にとって長時間、話し続けるのは重労働です。
そこも、考えて時間をコントロールする必要もあります。

「傾聴」の姿勢を示すと、相手に『今、話しても大丈夫です』というメッセージを伝えることになります。
施設ケアの場面では、時間帯によっては、その方の傾聴により他の方のケアをお待たせすることになります。
「あの人は話を聞いてくれるのに、他の人は聞いてくれない」と接遇のばらつきを指摘されることにもなります。
これでは、自分の評価は上がってもチームとしてはいかがなものか?

また、話好きな人は、『私の話でスタッフを励ましてる』『若いスタッフを育てている』と自負されている方もいて、特定のスタッフとの特別な関係を期待させてしまうリスクもあります。

脱出ゲームを成功させるには?

では、どう言えば?
わりと簡単。
相手は話の通じない空気の読めない人と決めつけてはいけない。
人生経験も知恵もある。

○10分後に○○があるので、それまで、お話を伺います。
と最初から時間を伝える

〇別の方をお待たせしているので、また、後ほど伺います。

〇その件は、相談員があらためてお話を伺っても良いですか。

〇そのお話、ゆっくりお聴きしたいので時間のある時に聞かせてください。

〇何度聴いても楽しいお話ですね。ありがとう御座います。今、ナースコールで呼ばれたので、残念ですが、失礼します。


そもそも、お話好きな方は聡明な方が多く、ちゃんと誤魔化さずに説明すると、気持ち良く納得されます。ただし、大事なのは、スタッフみんなが同じような対応をすることです。

そして、退室の極意。
笑顔、明るい声、モヤモヤを残さ無いキッパリした挨拶。
『また伺います』
『すみません。お話の途中で残念ですが、行かなくては』

そして、相手が『良いよ良いよ。忙しいんだから』『人手不足だから大変だね』などとちょっとでも労いの言葉をかけてくださった時がチャンス!

『〇〇様はいつもご理解頂けるので本当にありがたいです。』と心から感謝を伝えましょう。

施設の新人研修では、ノックをして入室する練習はありますが
退室するロールプレイをぜひ実施してほしいものです。

スタッフを引き留めて自慢話をする何倍もの幸せを感じていただく。
施設の個室で、長い時間を過ごす利用者が、
孤独を感じずに過ごせるような空気を残して退室することが
スタッフの退室の極意です。

そして、一人の利用者に1時間対応する時間を
3人の方と20分ずつ、お散歩にいけたとしたら、
みんなが満たされます。

携帯電話に他のスタッフから呼び出しをかけてもらったり、
タイマーをセットするという方法もありますが、
やはり、自力で脱出できたほうが楽しいですので
チャレンジしてみて下さい。


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