【心理学論文45】痛みへの共感と寄付行動

人が他人の痛みを感じたとき、どれだけ「心を動かされるか」は、その人の行動を左右する。
たとえば、慈善団体に寄付をするという行動の背後には、多くの場合、その人がどれだけ共感を感じたかが関わっている。

Ma et al. (2011) の研究では、実験参加者に他人が痛みを感じている映像を見せ、その間の脳の動きを観察した。
そしてその後、その人たちがどれくらいの金額を慈善団体に寄付するかを調べた。
その結果、主観的に自分自身が高い社会経済的地位にいると考えている人たちは、痛みを目にしたときに共感性にかかわる脳活動が高まれば高まるほど、実際の寄付額も増えていった。一方で、主観的に自分自身が低い社会経済的地位にいると考えている人たちは、逆にその脳活動が高まれば高まるほど寄付額が減るという結果が出た。

この違いはどこから来るのだろう。Kraus et al. (2012)が述べているような、社会経済的地位の高い人々は自己志向性が高く、社会経済的地位の低い人々は他者志向性が高いことが関係しているかもしれない。

たとえば、高いSSSの人たちは、自分のリソースに余裕があるため、他人の痛みに対して純粋に「助けてあげたい」という気持ちが行動につながりやすいのかもしれない。一方で、低いSSSの人たちは、他人の痛みに対して脅威を感じて、自分が持つ限られたリソースを守る必要が生じるかもしれない。そのため、たとえ痛みを目の当たりにして共感しても、それがすぐに寄付という行動には結びつかないのだろう。

高いSSSの人が寄付行動を促進される背景には、自分の余裕や安心感がある。一方で、低いSSSの人たちは、共感をいだいても行動に移すことが難しい現実を抱えているといえるかもしれない。

Kraus, M. W., Piff, P. K., Mendoza-Denton, R., Rheinschmidt, M. L., & Keltner, D. (2012). Social class, solipsism, and contextualism: How the rich are different from the poor. Psychological Review, 119(3), 546-572.

Ma, Y., Wang, C., & Han, S. (2011). Neural responses to perceived pain in others predict real-life monetary donations in different socioeconomic contexts. NeuroImage, 57(3), 1273–1280.

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