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重錘形圧力天びん(重錘型圧力計)の発生圧力


1.発生圧力の計算式

重錘形圧力天びんは、重錘に重力が働くことで発生する力と、ピストンに加えられる圧力がバランスすることで、安定した圧力を発生させる装置です。そのため、使用環境の条件(重力加速度、温度、圧力など)における圧力測定位置にかかる圧力を、次の式で算出して使用します。

重錘形圧力天びんの発生圧力

右辺の第一項は、重錘形圧力天びん自体が発生する圧力を表しています。厳密には、第一項の分母はピストン・シリンダの有効断面積であり、その決定方法にはいくつかのアプローチがあります(決定方法については後述します)。

右辺の第二項は、重錘形圧力天びんの圧力基準面(通常はピストンの底面)と圧力測定位置との高さの差による補正項であり、ヘッド差補正により圧力媒体の高さによる圧力変化を補正しています。


2.ピストン・シリンダの有効断面積

発生圧力の式からもわかるように、重錘形圧力天びんによる発生圧力の決定には、圧力発生時におけるピストン・シリンダの有効断面積の評価が非常に重要です。

ピストンとシリンダは対となっており、非常に狭い隙間に同心で嵌め合うよう精密に製作されています。圧力発生時のピストン・シリンダの概略図を以下に示します。ここで注意すべき点は、ピストン・シリンダの有効断面積がピストンの底面の断面積ではないということです。有効断面積とは、ピストンの側面に働く上向きの力と、ピストンとシリンダの間にある環状の隙間を通じて下から上へ流れる圧力媒体による粘性揚力とを統合したときの実効的な断面積のことを指します。

ピストン・シリンダの有効断面積

本来、ピストンとシリンダが理想的な円柱形であり、完全に同心である場合、ピストン・シリンダの有効断面積は、ピストン直径とシリンダ内径の平均値を直径とする円の面積になるはずです。

しかし、実際には、圧力発生時にピストン・シリンダの構造が変形します。概略図からもわかるように、圧力が加わると、一般的にはピストンの下部が内側に縮まり、シリンダの下部は外側に広がります。

圧力発生時のピストン・シリンダの概念図

3.有効断面積の決定方法

校正証明書などから得られた校正圧力値より各校正点におけるピストン・シリンダの有効断面積を決定する方法が最も簡易的な方法です。

なお、ピストンとシリンダの形状および材質から決定する方法も存在しますが、そちらの方法はOIML R 110を参考にしてください。

まず、発生圧力の式を変形させ、ピストン・シリンダの有効断面積を求めます。その際、校正圧力値は標準器の圧力基準面における値である場合はヘッド差補正の項は無視できます。

有効断面積の算出式

1)圧力依存性を考慮しない場合

各校正点において算出したピストン・シリンダの有効断面積に圧力依存性が認められない場合は、各校正点において算出した値の平均値をピストン・シリンダの有効断面積として採用します。

圧力依存性が認めらない場合

2)圧力依存性を線形と仮定する場合

各校正点において算出したピストン・シリンダの有効断面積の圧力依存性を線形と仮定する場合は、各校正点において算出した値を単回帰分析してピストン・シリンダの有効断面積を決定します。

圧力依存性が認められる場合(線形と仮定)

3)不確かさ

圧力依存性を考慮しない場合、有効断面積の標準不確かさは校正圧力値、重錘質量、重力加速度および有効断面積の温度補正に関連する不確かさ(校正時の測定温度の不確かさおよび温度係数の不確かさによる温度補正の不確かさ)を考慮し、さらに次式で求められる分散(回帰式の当てはめ欠如)を加味して算出します。

圧力依存性が認められない場合の分散

圧力依存性を線形と仮定する場合、有効断面積の標準不確かさは校正圧力値、重錘質量、重力加速度および有効断面積の温度補正に関連する不確かさ(校正時の測定温度の不確かさおよび温度係数の不確かさによる温度補正の不確かさ)を考慮し、さらに線形回帰から得られる分散を加味して算出します。


4.温度係数の決定方法

温度係数は、ピストンとシリンダの材質に関する文献値である線膨張係数(温度上昇によって物体の長さや体積が膨張する割合を温度あたりで示したもので、熱膨張係数とも呼ぶ。)から算出します。

なお、線膨張係数の値は幅広い温度で測定された値であり、室温付近の値と差が生じる恐れがありますが、通常はこれらの影響は不確かさとして加える項目です。

ピストン・シリンダの温度係数
熱膨張係数

5.圧力係数の決定方法

圧力発生時にピストン・シリンダの構造が変形する場合には、有効断面積の変化量を圧力係数として算出します。算出式は、圧力依存性を線形と仮定する場合に用いた式と同様です。

なお、ピストンとシリンダの形状および材質から決定する方法も存在しますが、そちらの方法はOIML R 110を参考にしてください。

6.参考文献

  1. JIS B 7610 重錘形圧力天びん

  2. JIS B 7616 重錘形圧力天びんの使用方法及び校正方法

  3. 産業技術総合研究所計量標準研究部門:気体高圧力標準に関する調査研究, 計測と制御, 第53巻, 第8号 (2014年8月)

  4. 産業技術総合研究所計量標準総合センター:液体高圧力標準に関する調査研究, 産総研計量標準報告, 第6巻, 第2号(2007年5月)


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