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重錘形圧力天びん(重錘型圧力計)の使い方


1.操作方法

最も基本的な校正装置の構造を下図に示します。

重錘形圧力天びん操作時の様子

操作はピストンの上に目標とする圧力に対応する重錘を積み、ピストンと重錘が圧力媒体の上に浮くまで、配管中に組み込まれた油タンクより供給される圧力媒体を加圧ポンプまたは圧力コントローラで加圧していきます。この状態は圧力媒体によって正確な圧力が圧力計へ伝えられており、このときピストン・シリンダ間の摩擦を減らすために、ピストンを回転30rpm以下でゆっくりと回転させます。ピストンがシリンダに直接接触しないで完全に流体によって支えられていれば、圧力の正確さ・再現性はppmレベルに達する事ができます。

このような状態を確保するためにはピストン・シリンダは非常に正確・精密でなければなりません。また、ピストンおよび重錘の中心が正しく鉛直線上に合っている事が重要です。

2.発生圧力の算出

ピストン・シリンダの発生圧力は、次式のようになります。
重錘形圧力天びんによって圧力計を校正または試験する際には次式に従い、圧力計へ加えた圧力を算出して表示値との器差などを測定します。

発生圧力の算出式

3.ピストンの高さ位置依存性

ピストンがテーパー状に成形されていれば、ピストンの位置に応じて、ピストン・シリンダの有効断面積は変化します。そのため、重錘形圧力天びんにはピストンの高さを検出できる機構を設けることが望ましく、使用する際にはピストンの高さ位置を事前に決定して使用する方が良いと言えます。実用上はピストンの高さ位置を使用範囲の中央に設定して使用することが一般的です。

ピストンの高さ位置が発生圧力に与える影響を評価する方法には以下のようなものがあります。最小圧力、最大圧力及びその中間の圧力の3点において、圧力コントローラ等でピストンの高さ位置を高位置、中央、低位置と変化させ、発生圧力の変化を確認する。圧力基準高さの補正だけでは説明がつかない有意なピストンの高さ位置依存性が確認された場合には、発生圧力の差を不確かさ評価に反映する必要があります。

なお、ピストンの高さ位置に対する圧力変化が測定圧力に対して比例するようであれば、発生圧力の高さ位置依存性はピストン・シリンダの形状に起因する可能性が高くなります。しかし、圧力変化が測定圧力に対して一定であれば、高さ位置に依存する要因によるものが考えられます。

4.ピストンの回転状態依存性

ピストンの回転方向及び回転数が発生圧力に与える影響を評価します。最小圧力、最大圧力及びその中間の圧力の3点において、圧力コントローラ等でピストンの高さ位置を使用範囲の中央付近に調整します。ピストンの回転方向及び回転数を変化させ、被校正器の発生圧力の変化を測定します。有意な回転状態依存性が確認された場合には、発生圧力の差を不確かさ評価に反映します。

通常は、使用している回転方向及び回転数に対して、同じ回転方向で回転数を3種類変化させた場合で回転させた場合で測定を行います。被校正器によっては、最小校正圧力点における回転数の減速が大きく、測定が困難な場合がありますが、状況に応じて測定条件を変更します。

5.使用上の注意事項

使用する際には重錘とピストンの状態に注意し、性能を維持できるように管理・保管します。

  1. 管理・保管については、製造業者の指示に従います。

  2. 温度・湿度の急激な変化、結露、振動、ほこり、ちり、電界、磁界、腐食性雰囲気及び圧力媒体の変質による性能変化などに注意します。特に、発生圧力及びその不確かさに直接影響があるピストン・シリンダの有効断面積、重錘質量、温度計の性能変化については、注意が必要です。絶対圧力を測定する場合には、真空計の性能変化にも注意します。

  3. 保管中は、重錘形圧力天びんのピストン・シリンダ及び重錘などに汚れ、さびなどが見られないか、圧力媒体が変質していないか点検するほか、保管環境が変化しないように管理する。必要に応じて、製造業者の指示に従い、ピストン・シリンダの保守(洗浄と拭き取りなど)を行います。

  4. 重錘形圧力天びんを定期的に校正し、性能を維持・管理します。JCSS制度上は3年の校正周期が規定されていますが、その他の国や制度上では校正周期等に関する規定は存在しません。

6.参考文献

  1. JIS B 7610 重錘形圧力天びん

  2. JIS B 7616 重錘形圧力天びんの使用方法及び校正方法

  3. 産業技術総合研究所計量標準研究部門:気体高圧力標準に関する調査研究, 計測と制御, 第53巻, 第8号 (2014年8月)

  4. 産業技術総合研究所計量標準総合センター:液体高圧力標準に関する調査研究, 産総研計量標準報告, 第6巻, 第2号(2007年5月)


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