かいぼう
今朝、職場についたら職員室の前に真っ黒な水の中に泳ぐコウイカがいた。別名「墨イカ」とも呼ばれるくらい、墨を吐くらしい。4匹いたが、どれも元気だ。バシャバシャと水を吹き出しながら狭い水槽を泳いでいる。
担任が、理科の実験用に釣ってきたそうだ。えー、こんなうまそうなイカを何の実験に使うんだろうか、と思っていたら、解剖するらしい。
そうですか。解剖…。つまり捌くのだ。
「神経締めをします。さあ、みんなハサミを持って。この足と頭の付け根に差し込んで、チョキンと切ります。まだ生きているイカにハサミを突き立てたまま、生徒たちはためらっている。「はい、思い切ってー。ジョキンと切ってください。そしたら、サッと色が変わりますよ」
最初の子がハサミを閉じた。チョキン!と絵に描いたような音がして、胴体は切れた。甲がスッと透明になる。
「はい、次は内臓を取り出しますよー。背中側にハサミを入れます」墨で真っ黒になったテーブルの上で、イカがゴニョゴニョと動いている。「まだ生きているんですか」と生徒が聞く。「いや、これはもう生きてないよ。反射で動いているだけ」担任は淡々と臓器の説明をする。「これがエラね。こっちが卵巣。たまごがビッシリ入っとるね。こっちが肝。これがクチバシ」
生徒の一人がふらふらっと座り込んだ。「ちょっと無理かな…。もう帰りたい」彼は、生きているものにとどめを刺し、体を切り開いて内臓を見る、という行為がしんどいらしい。
他の生徒たちは、かなり集中して解剖している。そして、皮を剥ぎ、お刺身を作り始めた。そうか。お刺身を作る工程だから平気なのか。これがカエルだったり、モルモットだったりすると、卒倒するかもしれない。不思議だ。
食べるとなると、「うまそう」にしか見えない。自分勝手だな。
生きたコウイカを中学生がさばいて、刺身を引き、醤油につけて食べる。一生のうちに、そうしょっちゅう経験できることではない。彼らは「また別の魚もさばいてみたいです」と言っていた。生きる上で必要なことの一つ。
いいぞ。がんばれ。