ドラマ『エルピス』が伝えようとしていること
どういうわけか、この秋はドラマが私を呼んでいます。。
馴染みのない呪文のようなタイトルだったのでちょっと敬遠したのですが、尊敬する渡辺あやさんの脚本だし、と見始めた『エルピス―希望、あるいは災い―』は、やっぱりスゴい。
ドラマ『エルピス〜』はスキャンダルによって落ち目になったアナウンサー浅川恵那(長澤まさみ)と彼女に共鳴するテレビマンたちが、冤罪事件の真相を追うエンパワーメントドラマ。
何がスゴいかと言えば、日本社会ー取り分け男性優位のメディア業界や大組織の中で、確かに存在しているのに、無きものにされてきたこと、正しくないことなのに、捻じ曲げられ、抑圧され、静かに葬り去られようとしていることが、ドラマの形をとって、さりげなく、でも、しっかりと、メディア自らがメディアを通じて発信している点。
それは例えば
⚫︎路上キスのスキャンダルで女性側は左遷。男性側は昇進。
⚫︎女子アナの多くは番組の添え物的に扱われてきた。
⚫︎夜の飲み会ではパワハラセクハラが横行。
⚫︎不祥事は組織ぐるみで隠蔽され、権力に逆らう者の発言は無視され、提案は握りつぶされる。
⚫︎長いものに巻かれろ、臭い物に蓋をするのが当然の組織の中は、上層部への忖度だらけ。
といったようなこと。
これまで不満だったけど、不服だったけど、違和感を覚えていたけど、見て見ぬふりをされ、無言の圧力に屈して我慢してきたことの数々がこれでもかって言うほどに飛び出してくる。
優れた番組に贈られるギャラクシー賞、ドラマ部門だけじゃなくて報道活動部門も受賞しちゃうんじゃないかと思うほど社会性、時代性に富んだ作品なのです。
タイトルのエルピスはパンドラの箱(正しくは壺らしい)に残された物を意味するギリシア語だそうで、ここに託されたメッセージにも、制作者たちの挑戦的な思いや覚悟が窺えます。
これまで沈黙させられてきた人、抑圧されてきた人の声や思いをぶち撒ける行為をパンドラの箱を開けることだとすれば、これまでの権力者にとっては分が悪く、災いとなるかもしれないけれど、世の中は良い方に変わるはず、という希望が込められているのだと私は解釈しています。
こうした作品が少しずつ増えていくことで
これまで迫害されてきた人、沈黙を強いられて来た人が、少しでも報われる社会になりますように。
現実世界に祈りを込めるような思いで、毎回食らいついて見ています。
※日経クロスウーマンアンバサダーブログより転載