チチ(父)の恋 二
チチはその女性と相思相愛だったようだ。
と、チチは信じていたに違いない。
ガラケー携帯からスマートフォンに買い替え、使い慣れるまで、携帯に全く必要性を感じていない母の携帯に残されたメールのやり取りの文章は、ただのお茶友達以上の恋心があるのは一目瞭然だった。
90のチチが、ハートを散りばめ、相手の甘えた文章に答えていた。
20年前といえば、チチはまだ70代。
その頃にはすでに定年していたからその時に出会ったとは思えない。
チチの説明を信じるならば、それ以前に顧問として会社に顔を出していた時にでも知り合ったのだろう。そして相談事を聞いているうちか、同情したのか、力になりたくて生活援助が始まったのだろう。自由に使えるようにカードを渡し、そこにお金を振り込み、靴や頼まれた食料品を近くのスーパーで買っては箱に詰めて宅配便で送る。クリスマスにはケーキを、お正月前には毛布と柏餅を送る。そんな交際が20年近く続いていたのだ。
こんな細かい内容をなぜ私達が知っているのかといば、守りが甘いチチが伝票をあちこちにおき忘れたり、洗濯やクリーニングを出すためにポケットを調べた母の目に留まることになっていたからだ。 だから母は私達が知るかなり前からチチに女性の影があることはを気がついていたようだった。それを知った義妹(チチの妹)が「興信所に調べてもらったらいい」という言葉に、母は「そこまでする必要はない」と答えたと言う。
理由は”送っているものがあまりにも貧素すぎる。多分生活に困っている人を援助しているのではないか”と。
数年前に自分の着ないスーツを知り合いに送ろうとした事があったらしい。
でもそれには染みが付いており、母は「いくらなんでも染みのついたスーツを他人に送るのは失礼じゃないか」と助言してチチは送るのを諦めたらしい。この男物の服は、どうやらその女性の弟に送ろうとしたのだろう。
何せ、妹、弟、両親にまで会った事があるらしいのだから。
これは行動が怪しくなり、問いただした時にチチ本人から聞いたことだ。
母の感は鋭い。そして想像、妄想も強い。
自分の想像を事実だと断定するのも激しい。
でも母の感は当たっていた。長年連れ添った妻の直感だったのか。