流風

日常に起こり得る様々な出来事の物語

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最近の記事

走子と歩夢

私の名前は走子。  「はしるこ」と書いて「そうこ」と読む。漢字そのままの意味。 聡明な、聡子。音を美しく奏でる、奏子。爽やかな、爽子。 こんなに素敵な意味の漢字は沢山あるのに。 それなのに、なぜに単純な小学校で最初に習う漢字の「走る子」だったのか。確かに自分の名前を書く時、走子は覚えやすいし書きやすかった。 だから自分の名前を書けるようになった時は、クラスで画数が多くて戸惑っている子もいる中スラスラと書く事ができたから先生にも褒められたし、その時はとても嬉しかった。 名

    • ミッシング ピース 4

      彼女とすごく時間はいつもとても穏やかで満たされていた。 そう、とても満たされていた。 そしてあの音がした。身体の中で。 小さいけれど確かに カチッ、とはまる音が。 ずっと見つからないから、存在さえも忘れていたパズルの最後のピースみたいに。きっと自分に合ったピースを探していた時もあったんだろう。 いつもそこに意識があったわけじゃないけれど「何かが欠けている」と身体と心が感じていた時が。 そしてその音が響いた瞬間、蘇ってきた「あぁ、そうか・・・最後のピースが欠けていたんだ

      • ミッシング ピース 3

        すれ違う偶然が重なるごとに、私たちは微笑み、軽く会釈をしてくれるようになった。それだけで毎回通り過ぎる。なかなか声をかけられない弱気な自分に呆れてしまう。でも声をかけてしまったら、この幸せな数秒のすれ違いが崩れてしまう気がして。 「ただすれ違う度に彼女が微笑でくれて、あの穏やかな空気の流れを数秒感じられるならそれだけでもいいかな・・・」と、どことなく完結した想いに近いものにもなっていた。 でも彼女と言葉を交わしてみたい。彼女のまとう穏やかな空気と一緒にもっと彼女と時間を共

        • ミッシング ピース 2

          初めて彼女とすれ違っとき、空気の流れが違うことを肌で感じた。 ちょっと鳥肌が立って 「なんだろうこの空気は・・・」 と戸惑った。 そんなことを毎日意識して生活なんかしていないし、気に止めてなんかもいない、空気の流れのことなんか・・・・ でも確かだった。 それを証拠に、何人かが足を止めて深く深呼吸をしていた。 それも口からからではなく鼻から。 そこに漂う空気を肺一杯に吸い込むように。 まだ霧が残る朝の森の中で深く深く深呼吸をするように。 多分10秒にも満たないほんの一瞬

          ミッシング ピース 1

          彼女と付き合い始めてしばらくして、ずっと見つからなかったパズルの最後のピースが見つかったと身体が感じた。 いつもそこに意識があったわけじゃない。 でも身体の中で、カチッと、そのピースがはまった音がした。 「あぁ、そうか・・・最後のピースが欠けていたんだ」 それが自分に欠けていたことにも全く気ついていなかった。 でも身体で、心で、実感してやっと理解ができた。            安堵と納得。 彼女はいつも無駄な動きがなかった。 と言ってもきびきびしとした規則正しい動き

          ミッシング ピース 1

          姉の恋

          現在50歳を少し越える4歳年上の姉は、中高とお堅い女子校に通い、知る限りボーイフレンドなるものはおらず、ひたすら『ロック命』を貫いて生きてきた女性だ。それは今もでも変わっていない。 規則が厳しい私立女子校だったので、ロックなんか、コンサートなんかに行くことは当然禁止だった。でももちろん行っていた。 軽音楽部なるクラブに所属し、表向きはクラシックを主にギターを弾き語るクラブだったけれど、主(裏では)の目的はもちろん、ロックだった。 コンサートに行っては見つかり、母が始末書を書

          兄の恋

          兄は年上が好みらしい。 妹である私がいるから、私と同じ歳や年下はナニか違和感があるようだった。 高校生の時の初体験の相手は1歳年上の女の子だった。 彼女は運動もでき頭も良い才女だった。だからその才女を射止めるためにかなり努力をしたようだ。 射止めた年上の彼女からはフィジカルアクティビティも教えてもらったけれど、宿題や勉強もかなり教えてもらっていた。もともと成績は悪くなかったけれど、彼女と同じ選択科目の成績は急激に上昇し、素晴らしい成績の伸びように担任教師から「何かありまし

          母の恋 

          「結婚している人と付き合っていた事があったのよ」そう話し始めた時、 母は60代初めだった。 「隠して付き合っているのはとても苦しかったわ」 付き合い始めた頃、母は40代だった。母が働いていたパート先での出会い。ありきたりなどこにでもある出会いだった。 その頃私は中学生だった。 そして母も父と結婚していたから、それは不倫関係ということになる。 その付き合いは熱い関係から温かい関係になるまで、母が70を過ぎるまで続いていたようだ。 どれくらい頻繁に会っていたのか、気がつきも

          母の恋 

          チチ(父)の恋 四

          数年前からかなり心臓に負担がかかってる状態でも交際相手に会いたくて、会いに行っていた90歳のチチだった。 体調が悪いのを家族に知られたら外出禁止になるからと隠していた。   と言っても、かなり体調が悪いことは私達家族は皆気がついていたけれど。  母の言葉にも耳を貸さず、里帰り中の孫娘や娘が「早く帰ってくれたら、会えるのにな」とメールの交換を入院前日まで続けていた。 緊急入院して医師の診断が終わり、面会が許されて3人で治療室に入って  姉と私が声をかけるとチチは弱々しくうな

          チチ(父)の恋 四

          チチ(父)の恋  独り言・・・

          20年間援助をしてくれた90歳の交際相手からいきなり連絡が取れくなり、その交際相手はどう理解しているのだろうか。 家族にバレたことはチチから聞き知っている。 銀行から援助金も引き出せなくなり、家族が行動開始したことは気がついたはずだ。 連絡を取ろうとするだろうか? でも携帯もすでに解約しているから簡単に連絡を取る方法はもうない。 自宅に電話をするほど心配をしているか、そこまでするほど愚かではなかったか。 そんなことをまだ考えてしまう時がある。 20年間、自分の収入とは別に

          チチ(父)の恋  独り言・・・

          チチ(父)の恋 三

          母の”生活に困っている人を援助しているのではないか”という感は当たったようだった。 だからと言って我が家がリッチなのかと言ったらそうではない。 普通と言ったら何が普通なのか?と言うことになるかもしれないけど、住んでる家は集合住宅で、食べ物は自分達が働いたお金で買うことができる。 そんな普通の生活だ。 今は簡単に住んでる場所など探せてしまうご時世。 守りが甘かったせいで残された数枚の発送伝票に記載されている住所から姉は住んでる場所をすぐに見つけた。その場所は都内のかなり良い地

          チチ(父)の恋 三

          チチ(父)の恋 二

          チチはその女性と相思相愛だったようだ。 と、チチは信じていたに違いない。 ガラケー携帯からスマートフォンに買い替え、使い慣れるまで、携帯に全く必要性を感じていない母の携帯に残されたメールのやり取りの文章は、ただのお茶友達以上の恋心があるのは一目瞭然だった。 90のチチが、ハートを散りばめ、相手の甘えた文章に答えていた。 20年前といえば、チチはまだ70代。 その頃にはすでに定年していたからその時に出会ったとは思えない。 チチの説明を信じるならば、それ以前に顧問として会社に

          チチ(父)の恋 二

          チチ(父)の恋 一

          携帯のメールのやりとりは5年前から始まっていた。 姉に間違っておくったEメールも5年前だったから。 それまではテレホンカードで連絡のやり取りをしていたようだ。 会話の端々に「テレカを買うの忘れたちゃったよ」やら「テレカ買っておいたよ」と書いてあったから。 その女を自宅がある家のショッピングセンターまで呼んで、仲良く買い物をしているところを姉が目撃したこともある。E メールの件もあるし、無視するのも変だと思い、姉は1度は声をかけたこともあるらしい。その後数回目撃し、これはあの

          チチ(父)の恋 一

          チチ (父) の恋  序章

          今年90歳になるチチ(父)には女がいる。 会社時代からの知り合い、お世話になった人だと言うが、怪しい。 行動が怪しい。 カラオケ仲間でもあると言うが、怪しい。実に怪しい。 酒、タバコは飲まない。賭け事は好きだ。そして浪費家。 今年はボーナスは出ないと母に言い、そのボーナスは全部自分で使ってしまったこともあるらしい。定年後の借金3回。 その度に自分では返せず母に泣きつくビビり。 挙げ句の果てに脳梗塞を起こし、入院したこともある。 最初に行動が怪しいと思ったきっかけは、間違っ

          チチ (父) の恋  序章