【欧州巨大スタートアップの日常】会社の25%がレイオフされた日の話
私の勤める企業はスウェーデンの、いわゆるスタートアップ企業だが、スタートアップといっても今年の初めには7000人以上の従業員を抱える巨大企業だ。設立されてから8年ほどが経ち、ずっと上り調子だったものの、突然ファンディングが底をつき始めたらしく、3週間ほど前に2000人近くの従業員をレイオフするというとんでもない通知があった。
スタートアップにはよくあることだと思うが、毎週社長からの30分アップデートがあり、その都度会社の状況について説明があり、社長が社員からの質問に応答する時間がある。だが、3週間前の月曜日は「緊急アップデート」という形で招集がかかった。会社が傾きかけているという状況は全員が理解していたため、この「緊急アップデート」には嫌な予感しかしなかった。
社長からの通知
そこで社長の口から告げられたのは、全社で20%~25%のレイオフを行うということだった。スウェーデンでは組合の力が非常に強いため、組合との交渉を経て、影響を受ける社員には通知が行くとのことだった。
そもそもスウェーデンでは組合の力が強く、6か月の試用期間を乗り越えれば絶対に解雇されないと安心していたが、実際には「いや、普通にレイオフあるじゃん!」というのが現実だった。実際、テック企業のクラーナやあのエリクソンでも、昨年数千人規模のレイオフが行われたばかりだった。
通知がくるまでの恐怖
組合との交渉は結局2週間かかった。その間、オフィスの雰囲気はこれまでに経験したことのない異様なものだった。転職の話題が当たり前のように飛び交い、オフィスに来る人もほとんどいなかった。多くの人が転職活動や自分のビジネスに集中していたため、そもそも会社に来る必要を感じていなかったのだと思う。
私はスウェーデンで一人暮らしをしていて、同僚たちは友人や家族のように仲が良かったため、日々のリズムを保つためにもオフィスに通っていた。人事部の仕事を手伝ったり、自分の履歴書を更新したりして、日々を過ごしていた。
その日は突然に。
2週間が過ぎたある木曜日、今度は人事のトップから「緊急アップデート」という形で、朝9時に全社へ「今日から個々に通知を開始する」という連絡があった。
「え、これってハンガーゲームか何か?」
まさにそんな一日だった。朝は歯医者に行ってからオフィスに向かい、同僚たちとランチを食べた。マネージャー陣は明らかにバタバタしていて、というのも、首切りリストが各マネージャーに配られており、対象者とのミーティングを行っている最中だった。
私は日本に帰るか、スウェーデンにしばらく残って転職活動をするか、どちらの選択肢も決めかねていて、現実感がないままにどうしようかなあとぼんやり考えていた。
そんな時、マネージャーからチャットで連絡が来た。「Do you have a minute?」 心臓が飛び上がった。ついにこの瞬間が来たか。いや、ここまで来たらもうどうにでもなれ、と思いながらミーティングルームに向かった。
「あなたのポジションは今回対象外だったよ。安心して。」
驚いた。私は採用部に所属し、いわゆるヘッドハントを生業としているので、この状況で自分が生き残れるとは思っていなかった。一方でチームのグループチャットは地獄のようだった。「Terminated.」(解雇だって)「I'm OUT」(私も解雇) という報告が家族のようにほぼ4年近く一緒に時間を共にして同僚たちから届いていた。
本当にショックだったし、自分が(今回は)救われたことへの罪悪感もあって、同僚になんて声をかけたらいいか、全然わからなかった。I am so sorry というペラペラなメッセージを打ちかけて、やめた。直接会ってハグしたいと思ったから。明日レイオフ通知後初めてのチームミーティングがある。どんな顔をして会社にいったらいいのか、わからない。
スウェーデンに来てから、成果主義の社会には満足していた。やればやるだけ評価される世界だったから、仕事に没頭できたし、やりがいも感じていた。でも、結局のところ会社勤めは、ただの「会社の駒」だという現実を突きつけられる出来事だった。だからこそ、会社を利用していくという視点も必要だと気づいたし、自分でお金を稼ぐスキルを身につけることが不可欠だという大きな学びを得た。