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帯は締めすぎない【リレーnote10日目】

ずっきーさん企画『真夏のリレーnote』に初参加させていただいております。

他の方々の投稿も多種多様で面白い記事が勢ぞろいなので、ぜひ見てみてください!


もりたさんからバトンを受け取りました!

今回はくすっと笑える夏の思い出について書いてみました。



彼(現在の旦那)と付き合い始めたある夏の話。

まだ、『花火大会』『夏祭り』などがデートの代名詞である青春真っ盛りの時期。私も例外ではなく当時の彼(現在の旦那)と都内の超有名花火スポットに繰り出す約束をした。

彼と行く初めての花火デート。私は浴衣を着ることにした。

以前友達と浴衣を着てディズニーに行ったことがあったが、自分で着付けたことで途中帯がゆるゆるになってしまった反省があり、今回はプロに着付けを頼むことにした。

花火大会当日。花火は夜からにも関わらず、朝から入念にメイクやヘアアレンジをし、お気に入りの浴衣を持って着付け屋に向かった。
やはりプロは違う。そう思わせる手さばきで着付けをこなしていくスタッフ。

「以前浴衣ディズニーした時、自分で着付けたら途中緩くなってきちゃったんですよね~」

「そうだったんですね~!では、今日はしっかり目に結んでおきますね」

そんな会話をしながら、「このくらいで大丈夫ですか?」と帯を締めるスタッフに、謎のプライドで少しきついと言い出せずに「はい、大丈夫です!」と答える私。

その会話が後に悲劇を引き起こすことになるとは全く予想もせず、支払いを済ませ彼と待ち合わせしている駅に向かった。

いつもと違う浴衣姿に浮かれている私に反し、落ち着いた口調で「良いじゃん、似合ってる」と言う彼。もっと大きいリアクションしてくれても良いのにと思いながらも、花火を見れるウキウキで電車に乗り込んだ私の足取りは軽かった。

一駅一駅停車する度に人で埋め尽くされていく車内。気づけば周りは浴衣を着たグループばかりだった。

やっと最寄りに着き、人ごみにまぎれながらもなんとか勝ち取った最高の花火スポット。夏の日差しにやられそうだったが、初めての花火デートにしてはスムーズに場所取りも済み、順調な花火大会の幕開けに二人で喜んだ。

そして始まった花火大会。やはり有名な大会というだけあって、『すごい』の一言だった。花火師の個性が感じられるような様々な作りに関心しながら、楽しいひと時を過ごしていた私達であったが、きつく縛りすぎた浴衣の帯が私の首を絞め始めていたことは、彼は知る由もなかった。

というのも、最初から少し帯がきつめだなとは思っていたものの、だんだんなんだか呼吸がしづらくなってきて、めまいと気持ち悪さを感じ始めていたのだ。

彼との初めての浴衣デート。絶対にここで負けてはいけない。一体何と戦っているのだろうかと今では不思議でたまらないが、当時は「体調が悪い」と言ってこの花火大会をぶち壊しにすることは、女としてのプライドが絶対に許さなかった。

「すご~い!!」

とはしゃぐ彼の横で、変な冷や汗をかき、半ば意識朦朧としながら作り笑いをする私。

(大丈夫だ。このままいける。)
そう思う自分と、
(早く体調不良のことを伝えて帰りたい)
と思う自分。葛藤していてもはや花火どころの騒ぎではなくなっていた。

そんなことで頭がいっぱいになっていたが、私が答えを出すよりも早く体は限界を迎えた。酸欠状態になり、息苦しさと吐き気で作り笑いさえもできなくなっていたのだ。人は命が脅かされると周りの目は気にならなくなるらしい。

「ねえ!帯ほどいて!」

彼にどう思われようがもうそんなことはどうでも良かった。一刻も早く酸素を体内に取り込まなければ。

急に何を言い出すのかと焦る彼を急かすように、

「早く!息が吸えない、帯ほどいて!」

と言い放つ私。

さすがに状況を理解した彼が力づくで帯を緩めた。と同時に、私の体には今まで吸いきれなかった酸素が雪崩のように流れ込んでくる。もはや女としてのプライドなんて一ミリも残っていなかった。

既に花火を見る体力も楽しさも残っていなかった私は、これから一番盛り上がりを見せるだろう花火大会の真っただ中、彼と帰路に着いた。

私たちのように花火中盤で帰る人などおらず、帰りも混むだろうと予想していた電車は、私の心を映し出すかのようにがら空きだった。

初めての浴衣デート。せっかく楽しみにしていたのに浴衣一つで台無しにしてしまった。そんな恥ずかしさがこみあげてきたが、彼の前で女の子らしい可愛らしさを保つのに必死で自分というものを出しそびれていた私にとっては、むしろ好都合だったのではないか。その日を境に、私は彼に対しても素を出せるようになった。

あの夏から8年。あの日以来私は一度も浴衣を着ていない。もう二度と着ないとあの時誓ったのだ。

花火大会の季節がまたやってきた。
『帯は締めすぎない。』
あの夏の教訓である。


次の走者は、立山 剣さん!
優しい言葉で包まれる立山さんの詩は、
読み手を温かい気持ちにしてくれること間違いなしです。
皆さんも是非、遊びに行ってください。


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