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「うむん」ってなに?「うまず」ってなに?言葉はまずは疑って、そして信じればいい

少年は、母親がふとつぶやいた、その言葉の意味を知りたかった。
カードゲームに出てくるモンスターの名前?ううん、そんな名前のモンスターはいない。
辞書を引いても、その言葉は載っていない。


少年が探している言葉、それは「うむん」。

ある出版社の辞書編集部の大人たちは、協力して調べ始めた。
大中さまざまな辞書、方言辞典、百科事典を開いても載っていない。外国の地名でもない。

どういう時にその言葉を聞いたの?
ヒントを得ようと、大人たちは少年に尋ねた。

少年は答えた。
お母さんが、泣きながら小さな声で、
「うむん」じゃなかった、と言ったのを聞いたと。


「うむん」
じゃなかった?

うむん、じゃなかった。
うむんじゃ、なかった。

大人たちは一斉に口を閉ざし、顔を見合わせた。

NHKBSで2月から4月にわたり放送されていた、「舟を編む」第5話のエピソードの一部です。

NHKBS「舟を編む」第5話
NHKBS「舟を編む」第5話

「舟を編む」は本当に素敵なドラマで、辞書づくりにまつわるエピソードに照らし出される<言葉>の繊細さや多様さや意味深さに毎回はっと気づかされ、感動の連続でした。
このドラマをきっかけに我が家では、重しとしてしか存在意義のなかった大辞林が表舞台にたびたび出てくるようになりました。


「舟を編む」第5話の大きなテーマは、
「言葉は疑って疑って信じる」「信じるために疑う」でした。


「うむん」という言葉の意味を知りたい少年のその後はドラマをご覧いただくとして、辞書編集部主任(野田洋次郎)の、このセリフだけはここに書いちゃいます。


「この先もお母さんを信じるために、お母さんはそんなことを言うはずないって言葉を疑ったんですね」

NHKBS「舟を編む」第5話
NHKBS「舟を編む」第5話


5月18日上川外相が、静岡県知事選の応援演説で、「うまずして何が女性か」と言ったとネットニュースで話題になりました。
あっという間にSNSでは批判の投稿が並びました。

でも翌日19日には、その発言は「(候補者である)この方を私たち女性がうまずして何が女性なんでしょう」の一部、であったことがわかりました。


「うまず」を「産まず」にしたい人は言葉を疑わうことなく「産まず」変換してしまう。


もうそんなに急いでどうするんだ。そんなに素直に受け止めて大丈夫なのですか。
誰よりも早く誰よりも多く再生数を稼ぎたいから?
お祭り騒ぎで威勢よく踊りたいから?


ゆっくり、ゆっくりと言葉を疑って疑って、そして信じるかどうかを決めても、言葉たちは優しく待っていてくれますよ。

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