本に愛される人になりたい(91) 高峰秀子「つづりかた巴里」
旅エッセイ好きにとり、作者が肩の力を抜き感じたままの言葉で綴られた作品ほど惹き込まれるものはありません。そして、私が読んできた旅エッセイもののなかでも大好きな一冊が本書です。1951年(昭和26年)に日本初総天然色映画『カルメン故郷に帰る』に主演後の6月、カンヌ国際映画祭へ参加するとして、結局翌年1月までの6ヶ月間、パリのアパートの一室で一人住まいを楽しんだ彼女の自由奔放な日々が、本書のなかの一章「巴里ひとりある記」に綴られています。
「毎朝、教会の鐘の音におこされて、窓をあけ深呼吸を一つしてから、気が向けば外へ朝食をとりに出かけてみます。足の向くままに、そこらの小さいキャフェで、クロワッサンとキャフェ・オ・レ(ミルク入りのコーヒー)をたべるのです」といった感じが、パリを身近に感じさせてくれます。すでに大スターだった27歳の彼女が、日本でのあれやこれやを脱ぎ捨て、パリの街角をふらりふらりと生きるその様子は、より一層高峰秀子という人物の心の動きが手にとるように分かります。また、第二次世界大戦から5年ほどしか経っていないパリを、彼女の視線を通して見ているような感覚もまた良いものです。
本書を再読し、次に手を出したのが「旅は道づれアロハ・ハワイ」、「旅は道づれガンダーラ」、そして「旅は道づれツタンカーメン」でした。皆さんもぜひ高峰秀子さんの旅エッセイにハマってみてはいかがでしょう。中嶋雷太