悲しきガストロノームの夢想(38)「赤唐辛子」
バルセロナのブケリア市場が好きです。夕方、仕事を終えホテルでシャワーを浴び、着替えてホテルからふらふら十数分散歩し、ブケリア市場に到着すると、あるタパスで三皿ほどタパスを頼み、冷えた白ワインを楽しむのがいつものパターンです。遅い日暮れの太陽がカッと差し込み背中に汗がダラリと流れますが、これもバルセロナだと楽しんでいると、市場の雑踏が心地良いBGMとなり酔いが深まっていきます。夕食前のタパスと白ワインを楽しみ、ぶらりぶらりと市場を埋め尽くす屋台を覗いていると、気づけば香辛料屋台の店頭の鮮やかな赤唐辛子にいつも惹かれ寄っています。
数泊の短いバルセロナ出張で、昼間はバタバタと動き回り、夜は夜でカタルーニャ料理を楽しんでいるうちに、赤唐辛子を香辛料屋台のデコレーションのようにとらえてしまい、結局買うこともなく帰国の途につくのを繰り返してきました。
日々の調理で赤唐辛子をふんだんに使うことがないので、スーパーで赤唐辛子の大袋を買うと、一年以上はキッチンの棚にその大袋が鎮座することになり、わざわざバルセロナの香辛料屋台で買うこともないと思っていたのもあります。
ただ、この数年、多種多様な赤唐辛子の情報が巷に溢れてくると、「あの時、買っておけば良かったなぁ」と嘆いています。もちろん、日本でも、ちょっとしたスーパーに行けば、様々な赤唐辛子を売っていますが、ボリューム感も新鮮さも、ブケリア市場のあの香辛料屋台にはかなわないだろうと思っています。
ブケリア市場のあの香辛料屋台に毎日通い、あれこれ赤唐辛子の種類や調理の仕方などを極めてみたいものです。激辛ブームにみられる、赤唐辛子が好き=激辛が好き、という子供じみた等式ではなく、あの屋台にはきっと、私の想像を遥かに超えた多様な滋味があるに違いないと睨んでいます。かと言って、赤唐辛子を使う料理はまだあまり知らないので、これからの楽しい課題だとグダグダ言い訳言葉を作っては、赤唐辛子道に踏み出せぬ我が身を笑っています。中嶋雷太
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