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【Disk】Soen - Imperial

 今回取り上げるのは、ここ最近一番のお気に入りの新譜であるSoenの新作。OpethあるいはToolといったワードのもとでその音楽性が語られることが多いですが、12年のデビューから通算5作目にあたる本作では、そうした例えがもはや不要になるくらいの個性の確立と素晴らしい音楽的成熟を遂げており、プログレメタルというマニアックなフィールド内で評価されるだけでは本当に勿体ない、非常にスケールの大きな「王道ロック感」を醸し出しています。ここで王道ロックという少し曖昧な言葉を使ってますが、もっと具体的に言えば、コンテンポラリーなメタルやオルタナティブロックのボキャブラリーを使いながらも、70s~90sの優れたクラシックロックバンドが持っていた「歌」の魅力を最大限に引き出すサウンドデザインにシフトチェンジを図ってきたということ。ここが本作”Imerial”の魅力を紐解く最大のポイントであり、また彼等の独自性を支える大切な要素にもなってきます。

 ちなみに00年代以降のメタルおよび周辺音楽についての私見ですが、音楽的には非常に面白い進化・深化を遂げてきているとは思うものの、グロウルやシャウトスタイルのヴォーカルがある種スタンダード化し、ヴォーカルの歌唱力にさほどの注目が集まらなくなってきたという感覚があります。逆に言えば、コンテンポラリーなサウンドスタイルの追求と同時に「歌を聴かせる」ことにも注力する。そんな難題に挑んでくるアーティストの登場に期待していたところもあります。

 そこに真っ正面から挑んだバンドの1つが、19年に大傑作"Pitfalls"を送り出したLeprous。サウンド的にもモダンなエレクトロ系(ダブステップ、トリップホップ、ダウンテンポなど)のサウンドテクスチャーを大胆に血肉化した最先端のプログレッシブロックを提示していましたが、その存在感を更に圧倒的なレベルにまで昇華させていたのがEinar Solbergの歌。バックのサウンドは極めて先鋭的なことにチャレンジしているのに、聴き心地は歌を前面に押し出したメインストリートミュージック感満載。感覚的には、全盛期のBjorkやRadiohead的と言えば分かりやすいかもしれません。実はSoenの新作を聴いた時に、歌を主軸としたサウンドデザインという共通項でまず思い出したのがこのLeprousの方向性。ただLeprousが脱ロックな洗練された歌メロ構築法を採ったのに対し、Soenはプログレ、ハードロック、オルタナティブロックの良き伝統を継承した熱くドラマティックな歌を聴かせる方向を採用しているのが大きな違いかと思います。

 この歌を主軸としたサウンドデザインの大きな鍵を握っているのは、もちろんヴォーカリストであるJoel Ekelöf。太くクリアな声質を持ち、中音域メインの抒情的メロディをゆったりと歌い上げるのが大きな特徴。声質的にはToolのメイナード・ジェイムズ・キーナンに多少似ている部分があるかと思いますが、一筋縄ではいかないメロディ展開、そして全体的に鬱で屈折した狂気を醸し出すことに注力しているToolでのメイナードとはかなり歌の印象は異なり、もっと陰影のハッキリとしたメランコリックなメロディを基調に、楽曲の持つエモーショナルな要素を最大限引き出すタイプの歌い手と言えるかと思います。また、同じ北欧出身であるKatatoniaのJonas RenkseやOpethのMikael Åkerfeldtによる、北欧プログレらしい抒情的歌メロとの類似性を見出す向きもあるかと思います。メロディの神秘性やメランコリックさに共通する部分はありますが、質感の一番の違いはサビのメロディの強さと歌のスケール感。前述のバンドは、楽曲トータルのメロディ展開やサウンド全体の雰囲気構築に重きを置いたサウンドデザインを指向していること、また2人とも声量や声の伸び・艶で勝負するタイプのヴォーカリストでないこともあり、やはり受ける印象は結構異なってきます。

 楽曲の構造としては、イントロや間奏部分ではメタリックなリフと名手Martin Lopezのパーカッシブなドラミングよってモダンなメタル要素を強く感じさせますが、Joel Ekelöfの骨太かつエモーショナルな歌唱が曲全体を牽引していくと同時に、オルタナティブメタル的だったりプログレッシヴロック的だったりとメロディ展開に合わせた多彩な演奏が歌の抒情性を盛り立てていく、そんな「歌が軸」という印象を強く感じさせるサウンドデザインです。また今回はCody Fordによるデヴィッド・ギルモアばりの艶やかなギタートーンが絶品で、楽曲の格を更にワンランク上げるのに大きく貢献していると思います。その美しくスケール感あるメロディとオルタナ的要素からポストプログレ化する前のA Perfect Circleを想起したり、音の官能的な響きと技巧的な演奏から”Opeth meets Pink Floyd”的な捉え方をする人もいるかもしれません。

 ただいずれにせよ、本作の機軸にあるのはJoel Ekelöfのエモーショナルな歌。キャッチ―な名曲M2”Deciever”を筆頭に、全曲リーダートラックとして通用するだけの高品質なメロディとエモーショナルな歌唱を堪能できる作品として、プログレメタルファンのみならず、クラシックなハードロック/メタル、プログレッシヴロックを好む層やオルタナティブロックファンまで幅広い層に受け入れられるポテンシャルを持った傑作だと思います。この作品を機に日本を始め、グローバルでのバンドの認知度がもっと上がると良いのですが。

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