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【Disk】White Void / Anti

 BorknagarやSolefaldで活躍しているノルウェーのマルチプレイヤー・Lars Nedlandの新プロジェクト。どちらのバンドも比較的活動歴は長いにもかかわらず、正直いずれの作品も聴いたことはなかったのですが(どちらもWhite Voidの後にちゃんと聴きしましたがとてもクオリティ高い)、Tower Recordのサイトだったか、"Blue Oyster Cult meets New Model Army"という表現で紹介されてたこともあって興味をそそられ、試しに聴いてみることに。確かにちょっと陰のある雰囲気をもった70年代ハードロックバンド的要素もあるし、歌の部分にフォーカスすればニューウェーブ的な要素も多分にあるのですが、ただ気になったのは、この宣伝文句だけだと彼等のユニークなサウンドの一部分しか捉えていないような気がすること。Amazonのレビュー含めて日本語で彼等のサウンドについてきちんと紹介されている文章もないようですし、最近のヘビーローテーションの1枚ということで、今回は”Blue Oyster Cult meets New Model Army”とはまた少し異なる視点から、White Voidのサウンドの特異性と魅力を分析していきたいと思います。

 まず注目したい点がメンバーの多様性。Larsのインタビューでも触れられていましたが、ギターはブルース畑で、ベースはエレクトロ系、ドラムはジャズ出身のプログレメタル畑。で、自身はプログレッシヴ・ブラックメタル畑。「オカルトロックとニューウェーブの融合」というコンセプトを目指すにもかかわらず、あえてそのものズバリな素養のメンバー集めをしなかったところが戦略的に非常に面白い。実際にアルバムを繰り返し聴いた各パートの印象は以下の通り。

<Vo>声質、歌い方ともに、ハードロック/メタル系ではなくニューウェーブ系(初期U2やEcho & The Bunnymenみたいな)。メロディの付け方の部分では曲によってはゴシックロックな要素もチラホラ(特にM3)。ただしサビは哀愁もありコーラスがかなりキャッチー。ここはサイケデリックポップやアート・ロックの遺伝子を引き継いでいる感じがします。曲によっては最近のGhostっぽさも感じられるかもしれません。

<G>ブルースフィーリング溢れる、まさに70年代ハードロックなギター。良い意味でオールドスタイル。リフがそこまでエッジを立てて主張してこない(キーボードやオルガンと一体化している)代わりに、とにかく印象的なメロディを紡ぐことに精力が注がれていて、Voパートでもお構い無しにオブリガードをぶちこんで曲を盛り立てていきます。全体のサウンドデザインの中でもギターの郷愁を誘うメロディが非常に重要なポイントになっている気がします。

<B>メタル系の硬い音でボトムを強化するタイプではなく、指弾きの柔らかく表情豊かなベースのメロディラインに特徴のあるタイプのプレイヤー。郷愁を誘うギターのエモいメロディとはまた違ったグルーミーなメロディを奏でることで、楽曲にアクセントをうまく付けています。ギターリフにそこまでオカルト的な雰囲気がない分、ベースの働きがオカルトロックとしてのWhite Voidを成立させる結構大切なポイントになっていますね。

<Dr>オーガニックで、非常に躍動感のあるリズム。さすがプログレメタル畑(Ihshan)のプレイヤー、かなりのテクニシャンだと見受けられます。表面的にはキャッチーなメロディでポップミュージックの体裁を取りながらも、実はかなり複雑な曲展開を見せる彼等のサウンドの「プログレッシブな側面」を見事に支えています。

このように各プレイヤーは決して同じ方向を向いているわけではなく、異質な個性がぶつかり合いながら、そのアンサンブルの妙で聴かせるというタイプのユニットであることがよく分かるのではないかと思います。非常に70年代的なアプローチですが、レトロ感を単にサウンドプロダクションや曲作りだけに頼らず、畑違いジャンルの敏腕ミュージシャンを集めて、そのインタープレイを重視することでレトロなロックの持つライヴ感や勢いを再現させるという戦略的な発想が面白く、また実際非常に良い効果を発揮していると感じました。

 次に注目したい点は、ポップなのに複雑な全体のサウンドデザインについて。前述した通り、White Voidのサウンドは、表面的なメロディだけ見れば少し陰のあるサイケデリックなメロディを軸にしたポップなもの。でもよく聴くとリフ〜ヴァース〜ブリッジ〜サビ〜ソロみたいなポップミュージックの定型に則った曲が実は少なく、流れるように展開していく複雑な曲が大半を占めていることに気づきます。GenesisやMarillionといったイギリスのプログレッシヴロックの大御所を想起させる部分もあれば、凝ったインストゥルメンタルパートからはBlue Oyster Cultの3rd、もっと遡るとVanilla FudgeやIron Butterflyなどのプログレ/サイケデリックロックの影響も見え隠れしています。

 ちなみにオカルトロックやサイケというキーワードから、Ghostとの類似性と差異についても言及しておきます。60年代サイケやBOCからの影響、また70年代のみならず80年代ロックへの愛着を感じさせるサウンドという点で両者に共通性は感じられます。ただ一方で、同じ80年代でも、Kansasなどの産業ロック的なポップさも採り入れて親しみやすいサウンドに仕立てているGhostと、ニューウェーブ的メロディセンスにこだわるWhite Voidとでは同じポップさと言っても質感はかなり異なる印象です。またオカルト的なサウンドの捉え方に関しても、GhostがBlack Sabbath的なドゥーミーなリフを積極的に活用するのに対し、White Voidはメタル的なアプローチは採り入れずにあくまでBOC的なハードロックなサウンドに拘っている点でも、彼等のオカルト指向の違いが見て取れます。

 White Voidの全体的なサウンドデザインをまとめると、70年代ハードロックを基調に、リバーブの掛かった音像の中、ニューウェーブ風のVoメロディとキーボード/オルガンによる分厚くサイケデリックなサウンドを融合させ、更にそれをプログレッシヴロック的な展開の多い曲構成で仕上げるというもの。さらに各パート別の主要な役割をめちゃくちゃ大雑把に括れば、Voはニューウェーブで、Key/Organがサイケ。Gがレトロ/ブルース(70年代ハードロック)、Bがオカルト、Drがプログレといった感じでしょうか。全体的にサウンドは丸くスペーシーでメタリックなエッジはありません。BOCが今の耳ではそこまでイメージするようなオカルト的な怖い雰囲気がなく、またヘヴィメタルの元祖的な音に聴こえないのと同様に、White Voidも自身が主張するほど「オカルト」な雰囲気はないので、オカルトロック云々よりも、80年代ニューウェーブ要素の強い歌を聴かせるレトロでサイケなプログレッシブ・ハードロックとして捉える方が分かり易いのかなと思います。Ghost好きの方は勿論、BOCやアリス・クーパーなどの70年代アメリカン・ハードロック好き、キーボード/オルガンが活躍するハードなロックサウンド愛好家(Atomic Rooster、Deep PurpleからSpiritual Beggarsに至るまで)、The Missionや初期U2といったニューウェーブなエモいロック好き、Fish時代のMarillionのようなシアトリカルでウェットなプログレ好き、サイケで複雑なアートロック好き、Jefferson AirplaneからThe Flaming Lipsに至るサイケポップ好きなど、メタルだけでなく幅広くロックを楽しめる人にお勧めできる、非常に間口の広い作品だと思います。

 余談ですが、Larsが多用する「オカルトロック」なるジャンルはあまり馴染みのない言い方ですが、サバスではなく要は初期BOC的なサウンドということなのでしょうね。最後に川嶋未来によるLars Nedlandのインタビューを参考URLとして貼って文章の締めといたします。




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